第27章 桜の咲く頃 ひとやすみ(初恋の巻)
「あのね…三成くんなの」
=初恋は、天使の微笑み=
「湖様―」
兼続の湖を探す声が聞こえた
信玄と話をしていた湖は、「あ」と声を上げると
「兼続と、お約束したの忘れてた」
と舌を出すのだ
それに苦笑する信玄
「はーい!ここでーすっ」
兼続の姿も見えないのに、声のする方向に手を振って大きな答えで答える湖
(こうゆうとこは、まだこどもなのになぁ)
信玄は、その背中を見ながら先ほどの事を思い出した
-あのね…三成くんなの…ないしょね。三成くんの…優しい笑顔をみると、どきどきするの-
(恋だろうな。しかも初恋ってやつだ)
まだ九つの湖は、それを理解していなかった
そのまま曖昧なままでも良かったのだろうが…
(まだこどもだ。「好き」で十分だろ)
そのままにして、挙動不審にさせるより
「好き」だと気付かせてやった方が行動が落ち着くだろうと判断した
「湖様、そちらにおられましたかっ。探しましたぞっ、お約束していました仕立屋が…」
「うん。うん、ごめんね、兼続。あのね、忘れてただけで、わざとじゃないのよ?」
「十二歳のお着物、少し用意致しましょうと約束致しましたぞ」
「はい、今いくね」
そう言うと、コロの頭を撫でてから縁側に上がろうとする湖
その湖の細い腰に手を回すと、信玄はその身を自分の方へと引き寄せ抱きしめた
「わっ…、と、ととさま??」
(相変わらず細いな…)
鼻下に湖の頭がくれば、その甘く優しい花の香りがよく解る
くんっと、わざと鼻を鳴らすように湖の首に顔を鎮めれば…
「やぁっ、く、くすぐったいよぉ…」
ケラケラ笑いながら、湖は自分の腹にある信玄の手に自分の手を重ねた
「し、信玄殿!?」
それに慌てるのは兼続だ
「んんーー。あいかわらず、俺の姫は良い香りだ」
ぴくりと身を揺らし、首を縮めてしまう湖
「もぅ。ととさま、本当にくすぐったいから・・そこでしゃべらないで」
「なんだ…?ここが弱いのか?」
腹に回していた片手を外すと、その手で湖の耳たぶを撫でれば
「ひぁんっ」