第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
(知ってるよー。今、お外だもん。変わったの見られたら困るんでしょ。わかってますよー)
なう、にゃ、にゃぁ!
「…ごめん、湖さん」
申し訳なさそうな顔をする佐助
すると、横に丸まっていた白粉が起き上がり
『夏の匂いに喜んでる。大丈夫だ、湖もいい加減人に見られたらまずいのも解っている。ここでは人には戻らない』
そう言い、娘の額を舐めると強制的に寝せるように煤猫を押さえ込む
押さえ込まれた湖は、「嫌だ」と言わんばかりに暴れるが、まだ鈴と白粉の身体では体格差がある
しばらくすれば、大人しくなり寝入ってしまうのだ
『やれやれ…私も飯山城まで寝るからな…起こすなよ』
「了解です」
『それから…これ以上、揺らすな…』
げっそうりとした表情
猫もしゃべれば、表情がよく解る
「それはむずかしいですね…」
馬の事だ
白粉は本当に苦手なようだ
苦笑した佐助
その会話を聞いていたのは、横にいた兼続だ
「白粉殿、こちらに来られますか?」
横から聞こえるのは兼続の声だ
「あぁ…確かに、兼続さんの馬は常歩が滑らかですよね」
「さようで御座います。他の馬に比べ極端に癖があるというか…悪い癖ではありませんが、駈けさせなければ大人しい馬で御座います。少しは負担が軽減するかもしれません」
「そうしますか?白粉さん」
(兼続の…)
『いや…寝ていれば支障ない』
「無理しない方が良いですよ」
『……』
白粉が答えないでいれば、佐助の馬と兼続の馬の間に割り入ってくるのは、政宗だ
三頭並んだかと思えば、ひょいっと白粉の首根っこを摘まみ兼続の座る鞍に置く
『な…』
そして、寝ている鈴
湖を摘まむと自分の懐にしまい込むのだ
「…政宗…さん?」
「持ち帰りはしない。この方が落ちないだろ」
そう言うと、また後ろに下がり三成の横へ並ぶのだ
佐助と、兼続、それに兼続の馬に乗せられた白粉は文句をいう間もなくだった
先頭にいた謙信は「独眼竜…」と苦言を指すように名前を呼んだが、はぁっとため息をつき再度前を見た
一方、兼続の馬に乗せられた白粉
(…確かに…この馬の歩きかた…そこまで振動がないな)
「…いかがですか?」