第7章 視察 (裏:謙信、政宗、家康)
鈴の体を引く手は、突然現れた
「っ湖!」
政宗がすぐに声に反応し、そちらを確認する
手の主は鈴を追いかけてきた謙信
猫の腹に手を掛け自分へ引き寄せると、音もなく刀が振られる
小箱を真っ二つに割れ、姿を現したのは火薬玉
斬られた火薬玉は、半分はただの玉、もう半分は導火線のついたものでそれは今まさに爆発寸前だった
「っち…」
謙信は、猫を腹に抱え火薬玉に背を向ける
池に落ちる寸前で、半分になった火薬玉が爆発した
―――どぉおおんっ…!!!!
(っ…きゃぁ…)
木箱やガラスが割れ、破片がすごい勢いであたりに飛び散る
それは、信長たちのいる部屋の襖にも
じゃばんっ!!
池が大きくうねり、鯉が地面に打ちあがった
「おわぁぁっっっ!!」
大名にもその破片が刺さり、腕から血が滴る
襖は、鉄砲の雨にでも降られたようにボロボロになり、床にも破片が埋まった
そして、ことっとり、木箱の破片が大名の足元に落ちてきた
「っ、ひぃいい…」
政宗は、その木箱を音を立て足で踏むと大名の首襟を掴み、信長の前へ転がした
「火薬の匂いがぷんぷんするわけだ…」
「湖っ!」
謙信に駆け寄ったのは、家康
謙信は、家康が近づくと腹に抱えた猫を家康に押し付ける
その手からは、血が滴って猫の毛にもついていた
「…あんた…っ」
家康は、爆発の衝撃で気を失った猫を片手で抱え反対の手で刀に手を掛ける
「怪我はない。気を失っただけだ」
謙信はそういうと、大名の方へ歩き出す
ずかずかと、部屋に上がると
大名の前に立ち、不機嫌な顔を向けた
「貴様…」
「お…お許しをっ、自分は信長の首を謙信様にとっ…!」
凍るような視線を送られ、大名はより青ざめ口を閉ざす
大名には謙信しか目に入っていないようだが、実際には後方に信長、横に政宗、目の前に謙信、その後ろに家康と4人に囲まれた状態だ
「そんなつまらんことを頼んだ覚えはない…」
「ほぅ…茶番だとは思ったが…龍の指示ではないかったか」
信長が話に加わると、謙信は冷たい目線を送りながら
「お前は、俺が直々に斬ると決まっている」
双方が今にも刀を抜きそうになると、二人に挟まれている大名はもう失神直前である
「…っひぃ…」
(…耳が…耳鳴りがする…)
湖が、うっすら目を開いた