第7章 視察 (裏:謙信、政宗、家康)
(っ…お願いっ、お願いっ!!鈴っっ!!!)
にゃーんっと、鈴の声が湖に聞こえた
それと同時に謙信が掴んでいた腕はなくなり、着物がばさりと床に落ちる
「っ湖…」
しゅっと、煤色の塊が襖の隙間から外へ飛び出るのを確認し、謙信も急ぎ追いかける
(信長さまっ、政宗、家康っ…無事で居てっ…)
猫の姿になった湖は、屋敷を駆け回り彼らを探す
その頃、大名は見せたいものがあると信長たちに小箱を持ってきた
それは、南蛮からのもので
小さな木箱、ふたを開ければ細かなガラス細工の鳥があった
「なんだ、それは」
信長は小箱を見ると、大名に質問した
「これは『おるげん』という名の機械。以前、南蛮からのものより頂きました」
見ていてください…そういうと、大名はおるげんの箱横にあったねじを回す
カチッという音とともに、聞いたことのない音楽が流れ始める
政宗は、大名のしぐさをずっと見ていた
(こいつから火薬の匂いがする…)
家康もまた警戒し大名のしぐさを見ている
「おるげんか…面白い。湖に見せれば、詳しく説明できるであろう」
「っは、では私が姫様をこちらへお連れしましょう」
待ってましたとばかり大名が立ち上がり襖を空けようとすると、政宗がそれを留める
「待て」
「…っ、いかがされましたか?」
振り向いた大名の顔は、先ほどと異なり青く汗が垂れている
「お前から、火薬の匂いがした…この箱からも…」
「さ、先ほど銃の手入れをした際に着いたのだと思いますっ…い、いそぎ、落としてまいりますっゆえ…」
襖に手を掛け、急いで出ようとする大名の足元を煤色の小さなものが通り過ぎる
「っ鈴?!」
家康がいち早くそれに気づくが、猫は箱目がけて走り、そしてねじ部分を加えると再度大名の立っている襖の方へ走り出す
「…っ」
信長が伸ばした手も、政宗がふさいだ退路もするりと抜け庭の池に向かう
箱から聞こえる音楽が次第に鈍い音になっていくと、カチリっと音楽とは違う音が聞こえた
湖は、それと同時に池に箱を投げ込むが、勢い余って自分の体も池の方へ飛んでく
(っ…駄目っ!)
箱と猫が一緒に池に落ちていく様は、ゆっくりと信長たちの目にも映っている
大名は、青ざめその場に頭を隠し縮こまった