第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「喜之介は、少しの間城には来られません」
「…っ、もしかして…あの事で」
「いえ。そうではございません。家庭の事情です」
「家庭?」
「さようでございます」
(間違いなく、あの件で…謙信様や伊達殿の対応が不安なので、喜之介はしばらく城内出入り禁止にしたのですが…湖様には悟られないようにしなくては…)
嘘が苦手な兼続の精一杯の嘘だ
「ふーん…わかった」
ほっと胸をなで下ろしたくなる兼続
そんな兼続を見て、白粉は小さく笑っていた
「じゃあ…」
「昨日の続きを、今日は部屋で勉強いたしましょうか?」
「うん!」
三成と湖は、昨日の続きの話をしていく
その内容が動物の繁殖から子孫の繁栄、自然の弱肉強食など…
兼続の予想とは別の話で、聞いていた兼続が首をひねった
(某…てっきり、そこから湖様に気づきを与えると思い込んでいたのですが…)
だが、黙って話に耳を澄ませていれば
「え…?動物は繁殖期の雌を見つけると、誰でもそうするの?」
「種類によります。たとえば、鶴は一雄一雌制で、どちらかが何かの理由で欠けるまで生涯共に暮らすそうです。ですが、兎や狸、魚などはその時期になればこぞって雌を探し子孫を残すべく動きます」
「色々なんだね…じゃあ、人は?」
三成は一息置くと
「人はもっと複雑です」
と言うのだ
首をひねった湖に続けた説明する三成
「雌、雄ではないのは解りますか?」
「女と男でしょ?わかるよ」
「人間の女性には、繁殖期等というものはありません。ただ、子どもが育てられるようになる身体の仕組みが出来るという点では動物たちと同様です」
「うん」
「鶴のような関係でいる人もいれば、そうじゃない人もいる」
「…ん、うん?」
クスッと笑うと、困ったように眉をひそめて話を続ける三成
「少し難しいかもしれませんが、聞けますか?」
「うん、頑張って聞くよっ」
「愛情を育み夫婦となって家族を成す。そうでは無い場合の話です。先ほど話したとおり、多くの動物は発情期というものがありますが、人間には発情期がない。と、いうよりはいつでも発情期なのです」
眉をひそめる湖
「つまり人は、いつでも性的思考があるという事です。しかし、人には理性があります。昨日、狸の交尾を湖様は見ましたね?」
「うん」