第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「顕如なら今は動かないだろう…」
信玄が、兼続のそれに答えた
誰もが信玄の方を見る
「あいつは今動くのは得策だとは思ってないだろうな。あいつの狙いはあくまで、信長だ。今、湖を狙えば安土ならず、越後まで敵に回す。そんな規模の戦は妥当じゃ無いと解っているはずだ」
「そうだな」と謙信も頷く
だが、不審な表情を見せるのは政宗と三成だ
「おい…顕如とお前は繋がってるのか…」
「信玄様、今のお言葉…」
「心配するな。大昔の話だ。今は何のつながりも無い」
それ以上は聞くなというような言いよう
政宗と三成も深くは追求しなかった
なにより、その言葉に裏はないと思えたからだ
「しばらくの間、ちびの外出は控えるようにした方がいいな」
「…どのみち、あと数日で桜様の元には出かける必要があるし」
そう湖は、あと10日もすればまたあの地へ行く必要があるのだ
「それまでなら、特別湖さんに知らせなくても…普段の生活で問題ないでしょう」
佐助と幸村が頷いた
謙信、信玄、兼続もだ
そして、政宗と三成が声をあげた
「俺もそこまで残るぞ」
「そうですね…何か起こった際、近くに安土の者が居ることはそれだけでも威圧がかかるでしょうし…信長様と秀吉様に連絡を取りましょう」
「別に貴様らは不要だ…」
「まぁ、そう言うな。謙信…事が起こったばかりだ。情報が掴めるまでは、警戒し過ぎて悪いことは無いだろう」
「……」
謙信が口を噤むと
タイミングを見計らったように襖の外からかかった声
「私だ…入るぞ」
入ってきたのは、白粉
それと
「鈴…か?」
「あぁ。…湖は少し参っているようだ…あのあとすぐに、鈴に変わった」
腕の中で丸まっているのは、鈴だった
鈴は謙信を見つけると、白粉の腕から飛び降り謙信の膝に乗る
「万一など…起こらないのが前提だが…起これば、私を使え」
そう言ったと思えば、白粉の声色がだんだんと変わってくるのだ
そしてその長身も徐々に姿を変える
それに、その場の武将達が目を見張った
白粉がいた位置に立っているのは湖なのだ
白粉の先ほどまで着ていた着物は、湖の身体には大きいらしく着崩れている
いや
「お・・おし、ろい…殿…で…」
「あぁ」