第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
広間へ行けば、昨夜小国に赴いた謙信、信玄、政宗、幸村
それに城に居た佐助、兼続が揃っていた
「湖様は起きられましたか?」
「えぇ…やはり、「あれ」は耳に入ったようです」
三成がいう「あれ」というのは、「その娘、こちらにもらおうか」と言った男の声だ
兼続にそう答えれば、政宗は「そうか」と渋い顔を見せる
信玄は、はぁっとため息を漏らすと
「しかし…これで、湖の存在が知れ渡っていることは確かになったな…何処までかは解らんが…昨夜の国の件は、もう除外したとしても、北条に顕如。このあたりは警戒すべきだな」
それに三成が信玄の方を見ながら口を開く
「越後と安土が協定状態にあるのです。そうそう手を出してくる国はないでしょう。ですが、少しやっかいですね。湖様は、これからまだ成長される。ここ春日山城の人々にとってはもう慣れ親しんだ事だとしても、このような事態は無い…まさか妖や土地神など考えもしないでしょうが、摩訶不思議と興味はそそるでしょうね。しかも、その対象が…」
「湖は見た目も惹くからな…国に敵対意識はなくとも、湖単体で狙われる可能性も出てくるな」
信玄の言葉に三成が頷いた
「まずは、何処までどんな噂が立っているのか、早々に確認する必要があるな。そっちは俺に任せろ」
謙信が信玄を見て頷くと、佐助が口を開く
「北条に関してはしばらく大丈夫です」
「佐助、まさか、お前・・何かやったのか?」
幸村の言葉に首をふる佐助
「いいや、俺じゃない。今川義元が、北条に対して挙兵しました。こちらに気を回す余裕は当分無いでしょう」
(俺の知っている歴史では、もっと前だったはずなんだけど…今のタイミングで起こるとはな)
戦だ
歴史マニアの佐助、織田、上杉、武田、北条、今川、毛利このあたりの歴史はざっと頭に入っている
もちろん、此処に来て上杉謙信、武田信玄にであった時点で自分の知っている歴史とは異なっている認識はできた
だが、いがみ合っている国の諍いは知っている歴史にそって起こるようだ
「そうか…今川が動いたか…」
信玄が、そう呟けば
兼続が考えるように顎に手をあてがって
「ならば、北条は除外できまするな。今川も動くとなれば、その辺の同盟国も動きます…ならば、当面は近くに潜む顕如が一番でございますが…」