第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
謙信が歩き部屋を出て行けば、政宗は小さく笑みを零す
「なるほどな…ますます気に入った…」
そう言い謙信のあとを追って出た
「武田…信玄様」
「お?俺を知っていたか?」
「はい。一時期亡くなられたと噂が流れた時、私は嘘であって欲しいと願っておりました。貴方の政、外からではありますが…とても…素晴らしいとその手腕を拝見させていただいておりました」
「それは光栄だな」
「…些細な事でもかまいません…本当に、お力をお貸し願えますか?」
若者の目は必死な思いを伝えてくる
(いいな…こいつはでかくなりそうだ)
「縁だな…此処には滞在出来ない、国として機能出来るようになるまでは力を貸そう。謙信が言ったとおり、しばらくの間は不穏な動きがないか見張りもつけなければならない。俺の手の者を側に置く。何かあれば、それに繋ぎをつけてくれればいい」
「っ、感謝のしようもございません!!どうぞ、よろしくご指南ください!!」
幸村が面倒そうな
だが、嬉しそうな笑みを浮かべていた
薄く張っていた雲はいつの間にかまれ、空には美しい月がぽっかりと浮かんでいた
謙信達が春日山城に戻ったのは明け方だ
早朝、まだ女中達も起きない時間
見回り番の家臣が頭を下げ、謙信と信玄、幸村に政宗が過ぎるのを待つ
そして首をひねった
(こんな早くから、どちらに行かれていたんだ?)
と…
湖が起きてきたのは、その数刻あとだった
あれから鈴のままだった湖
白粉は、そんな鈴とずっとくっついて行動していた
湖は?と言えば…
鈴の中でずっと寝ていたようで、起きて明るくなっていたのもあり、翌日だと気付くまで時間がかかった
「ん?あれ…じゃあ、私…あのまま寝ちゃったの?」
「そうだ」
「え、えぇ…」
「お疲れだったのでしょう。怖い思いもされましたし…申し訳ありません、湖様」
「そんなっ、三成くんのせいじゃないもの。昨日はね、すごく面白かったのっ」
「面白い」その言葉に白粉も三成も思考が止まった
「かかさま、昨日ね、森に行って・・」
湖が満面の笑みを見せ、白粉に昨日三成に聞いた話をし始めたのだ
(杞憂…か…)