第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
(私が…かかさまの本当の娘なら、妖ならきっと戦えるのに…)
そう思っても、事実は違う
白粉は妖で、自分は人
白粉との血縁関係は無いのだ
何人もの男達が、膝をつき倒されていく
そして最後の一人になったとき、幸村の声がした
「あいつは、お前らが触れて良い存在じゃねぇ!」
(っ、ゆき…)
どさっと人が倒れた音が聞こえた
耳を塞がれたまま上を見ていれば、馬の手綱を引いた政宗と幸村が川下を指さし移動しろと指示するのが解る
三成はそれに頷くと、「失礼します」と湖を抱き上げ場所を移動しはじめた
しばらく進んでから三成が坂を上がる
そこは先ほどとは少し離れた場所で、あの男達も見えなかった
「湖、大丈夫だったか?」
「っ、」
三成に抱えられたまま幸村を見れば、自然と流れてくるのは涙だ
「だい、じょうぶかは・・ゆきと、まさ、むねだよっ!」
真っ赤に染まり出す頬、落ちていく大粒の涙
「心配されるほど弱くねぇって教えてるだろ?泣くなっ」
ぐしゃぐしゃと、 湖の頭を撫でれば
三成は湖を下に下ろす
「ま、さむね…は?」
「あんなの準備運動にもならねぇ。ここの軍神の相手を連日してたからな。止まって見えたぞ…面白いもんだな」
と、政宗は自分に感心している様子なのだ
「お二方ともご無事ですよ、湖様」
幸村がぐちゃぐちゃにした頭を撫でるように治す三成
「う、うん…っよかった…びっくりした…」
「石田三成、悪いが今日はここで中断だ。城に戻るぞ」
「ええ。承知しております」
「湖、念のため顔は隠しておけよ」
出がけ同様、政宗に羽織をかぶせられた湖は素直に頷いた
四人が戻れば、すでに報告が入っているのだろう
信玄と謙信、佐助に白粉、そして兼続が迎えに出てきていた
「湖様っご無事ですか!?」
「湖」
兼続と白粉が駆け寄れば、湖からの返答はない
湖を抱えた三成は、白粉にその身を預け
「驚いたのと疲れでしょう…眠ってしまいました」
そう言い自らも馬を下りる
幸村と政宗も同様馬を下りて、馬番に手綱を渡すと城へと入っていった