第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
今日は鈴は見えなかった
ぴちゃりと、手を入れると疑問に思っていた事を聞いた
「結婚したら子どもが産まれるの?」
「…そうゆう行為をすれば…ですね」
「さっきのたぬきさんみたいな?じゃあ、結婚しなくても子どもは産まれるの?」
「そうですね」
「ふーん…でも、身体が大人にならないと子どもはできないんでしょ?」
こくりと頷く三成
「…私に繋がる人もいるんだよね」
「……湖様」
「あ。違うのっえっと、そうゆうしんみりじゃなくて…そうなんだよなぁーって思っただけ。そこは、湖が大きくなったら桜さまがちゃんと教えてくれるって言ってるから気にしてないの」
(確かに…湖様は、あの時もそう仰っていましたね)
大泣きした湖が湯殿でそう話していた事を三成は思い出す
「自分に繋がる誰かがいるっていうのは…素敵だなって思ったの」
にこりと微笑み三成を見る湖
「そうですね」
「でも、その繋がりを覚えていない今も私はすごく幸せなの。かかさまと、ととさまと、兄さま。謙信さまと兼続と幸、それに喜之介。あとね、三成くんや政宗たちも、こうやって一緒にいられて毎日幸せなの」
「良いことです」
「桜さまがね、今を楽しめって言うの。大きくなったら、湖は色々思い出すけど、今も忘れないんだって。だから、いっぱい楽しくするの。でも、ちょっと興味はあるんだ」
ふふっと笑う湖を、上から降りてきた政宗と幸村も見る
「大きくなった私は、誰を好きでいたんだろう?って」
水面に光が当たってチラチラと輝く川
優しく吹く風が湖の髪を揺らし、チリリンと鈴の音が響く
複雑な思いは感じられない表情
単純に子どもの興味の範囲だ
小さくなる前の湖が愛した人間
もし、この幼い湖が誰か別の人間を愛したら
元に戻ったときに選ぶのはどちらなのか
だが、それは自分達の都合だ
この湖は、子どもなのだ
何に捕らわれる必要はない
登竜桜が言うとおり、今を楽しく過ごす子ども
時を超え、更に猫と一体化になってしまった稀に見る体質の持ち主
それが原因で体調を崩し寝込んだ
放っておけば助からない状態だったとあとで知った