第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「動物の場合、雄と雌と言いますが…父親の雄が命の源を、母親の雌のお腹に送り込むことで子が成すのです」
「ふーん…どうやって送り込むの?お腹切っちゃうの?」
「いいえ。そうですね…雌のお腹に繋がる道…洞窟があって、そこを使います。そこは赤子が産まれてくる産道になるのです」
「さんどう?」
「産まれる道と書きます」
三成の声が頭の上から聞こえる
狸たちの姿はもう見えなかった
「じゃあ…さっきのたぬきさんは、命の源を送り込んでたの?」
「そうですね」
「赤ちゃん。産まれるの?」
「そこは難しいもので…必ずしも産まれるというわけでは無いのです」
「なんで?」
「時期…というのでしょうか?動物の場合、発情期というものがあり子どもをなせる期間が決まっているのです」
「そうなんだ…」
一間おいて湖は聞いた
「じゃあ、湖や鈴もそうなの?」
「湖様達はまだ子どもです。子どもが子をなすことはできません。大人の体になれば、話は別ですが…」
「大人の体になったかどうかは、どうわかるの?」
「それは…」
馬を進めながら、話す三成と湖
その邪魔をしないように、幸村と政宗は後ろを付いていった
「…たんたんとしてんな」
「三成は何をしたくて此処に連れてきたんだ…まぁ、湖が楽しいなら良いが…」
「楽しいっていうか…いや、楽しいのか?」
そして、森を通り川へ
そこは以前信玄と来た覚えのある場所で
「あ、私ここ知ってる!ととさまが連れてきてくれたの」
「信玄様といらっしゃいましたか」
「うん。鈴の姿で水飲んだら川に流されそうになって注意された」
あははっと笑う湖に「それは笑い事ではありませんよ」と言いながら、三成は湖を馬から下ろした
そして、抱えたまま生い茂った草の低い坂を下り川の方へ向かう
「川にも動物がいますね」
「魚っ、あと虫」
「かれらもまた同じように子孫を増やします」
「だから大きいのもいれば、小さいのもいるんだよね」
「人も同様です」
「…そっか。そうだね、人も一緒だね!命ってすごいね、みんな繋がって産まれるんだね」
「湖様もですよ」
水が触れる位置に下ろして貰えば、水面を見るように中をのぞき込む