第1章 タイムスリップ
(この歳で人に服を着せてもらうなんて…)
湖は頬を染めつつ申し訳なさそうに女中に礼をした
「三成様がお連れになった際、お着物を召されて居なかったので驚きましたが…」
ふふっと笑いつつ帯を締めながら続けた
「湖様は、可愛らしい方ですね」
そう言われ、さらに赤くなっていると外から声がかかる
「湖の用意は出来たか?」
「はい、秀吉様」
女中はそう答え、秀吉を招き下がった
秀吉は湖を見ると襖を閉じ伺うように近づいた
湖は、その威圧感に後退りしたがやがて壁に追い込まれ、秀吉を見上げるような形になった
「政宗は、もののけや間者の類いではないと言っていたが、俺は信用していない。なにか危害が有ればお前を斬って捨てる…」
斬る…と言われ、先ほど政宗に刀を当てられた首筋に手を当てた
「…ん?」
秀吉はその動作に気がつくと、眉を寄せた
湖が首筋に当てたその手を取り離せば、首に刀を当てられた跡がうっすらついているのに気づく
「政宗か…」
はぁ…ため息をすると懐から貝のような物を取りだし、中をあけて指につけると、その手を湖の首元に運ぶ
「…念のため薬を塗っておけ」
青ざめた湖の首に指をつけると、湖はあからさまにびくりとした
「大丈夫だ、傷薬だ」
優しく丁寧な手つき、先ほど斬ると言ったのは誰なのかと確認したくなるようだった
「…脅して悪かったが、お前のような者ははじめてで…どう扱うべきか判断しかねている…悪いが、様子を見させてもらう。危険がなければ悪いようにはしないから安心しろ」
今度は幼子に言い聞かせるように秀吉は湖に伝えた
「…はい…秀吉…様」
歯切れ悪く答えると、政宗同様「秀吉」で言いと言われたが、なんとなく「秀吉さん」と呼んで返した
薬を塗り終わると湖は秀吉に連れられ大広間へと向かった
そこには信長をはじめとする武将たちが並んで座っており、湖は連れられてきた秀吉の斜め後ろに座った