第88章 八十八日目
ウリエが初めて俺に質問をしてきた。
就寝前、俺がこのノートを広げた時だった。
「あの……リヴァイさん。」
最初、俺の名前を呼んだのが誰だか分らなかった。
「仔馬の名前を考えてはいただけませんか?」
俺を呼んだ声に続いて、すぐに質問が飛んできた。
ウリエを振り返れば、その場に直立し、緊張と不安で泣きそうな顔をしていた。
まず、俺に話しかけて来た事を褒めてやるか、さも当たり前のことのように質問に答えてやるか、迷ったが俺は後者を選んだ。
「いいが。お前は何か、候補は無いのか?」
そんな答えが返ってくるとは思っていなかったのか、次は驚いた顔で俺を見る。
「い、いえっ。あの。リヴァイさんがお付けになると…」
ウリエの視線は馬の事を書いたノートに向かっていた。
視線を向ければ、名前の候補だろうか、いくつか名前が連ねられていた。
そして、そのうちの一つに丸が付けられていた。
「考えていたんじゃないのか?」
ノートを指して言ってやれば、申し訳なさそうに「はい。」と答えた。
名前を言うように促せば、何故かちょっと自信ありげな顔をする。
「ジークリット…」
言い終わると急に自信をなくす。
何だこいつ、百面相の練習でもしてきたのか。
「いいじゃねぇか。それで。」
「…はいっ!」
次は嬉しそうに笑う。
表情豊かになったな。
前のこいつからは考えられない。
無表情か、笑顔。
今じゃ色んな表情をするようになった。
誰が教えた訳でもないのに、人間に本来備わっている物だ。
あって当たり前だ。
明日、仔馬の新しい名前を呼びに行くのが楽しみなのだろう。
笑顔で俺が書き終わるのを待っていた。
面白いやつだ。
・・・