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観察日誌  リヴァイ・アッカーマン

第95章 九十五日目



今日は休日だった。

また図書館へ連れて行ってやったが、俺が見える範囲で動きまわっているようだった。
今日は閉館までおらず、夕方には戻った。

「好きな本は読めたか。」
「はい。」

そうではない。という答えだ。
目がそう言ってる。
まだ迷子の事を引きずっているのだろうか。

「迷子になることぐらいあるだろう。行きなれた森じゃないんだからな。」
「…はい。」
「もう、忘れろ。俺は別に怒ってはいない。」
「………はい。」

長い間の後に返事。

「迷子になってどうだった。」

答えが無かったが、YES、NOの返事で迷っている様子ではなかった。
心の中を表現する言葉を探しているよう。

「怖かったです。」

しばらく考えて答える。

「そうか。ほかには?」

本当ならここで終わらせたいところだが、自分の胸の内をさらけ出す事もまた訓練だ。
会話に付き合ってやる。

「…寂しかったです。怖かったです…戻れないと思いました。」

関を切ったように、ウリエの心が漏れて来る。

「楽しいの終わりかと思いました。」
「たのしい?」
「はい。…リヴァイさんとジークリットと毎日楽しいです。」

ボロボロと涙も溢れてくる。
ひっくひっくとしゃくりながら、言葉をもらす。

「楽しいの初めてです。」

人形が人形として暮らしていて楽しいと思う事は無いはずだ。
初めてのこの楽しいと思える状況が、無くなってしまう恐怖と、ただ純粋に迷子になった恐怖とない交ぜになったのだろう。

「ウリエ。お前は人形じゃない。楽しいと思えることをもっとやれ。誰も咎めやしねぇよ。」
「……。」
「しちゃいけねぇ事は俺が教える。だから好きにやれ。お前は人形じゃない。ウリエ・フェンベルグという人間だ。」

ウリエは真っ赤に泣き張らした目で俺を見つめるだけ。

「確かに俺はお前を金で買った。だが、お前の主人になるためじゃない。」
「え…?」
「いい加減理解しろ。人間は人形にはなれない。だからお前は人間に戻れ。」

ウリエは理解できたのだろうか。
考え込んでしまった。
夕食を取るために、目を真っ赤にした奴を食堂に連れていく訳にもいかず、食事は部屋で取った。

あれから特に会話をする事もない。
今日は寝る。





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