第1章 出会い
Hotel Crow
「へぇ、澤村さん、まだお若そうに見えるのに凄いですね。」
「いえいえ、そんなことは。オーナーと言っても雇われですし、働いてる人間も皆昔からの仲間なのでやりやすいだけですよ。」
澤村さんは笑顔で謙遜するけれど、やっぱり凄いと思う。
今だって私が寒くないように暖房を強めに入れてくれているし、緊張しないようにとこうやって話しかけてくれて…。
気遣いの上手な人なんだなと感心していたら、澤村さんが窓の外を指差した。
「ちょっとまだ見えにくいかもしれないですがあそこがうちのホテルです。」
言われて指の方向を見ると雨粒で見えにくいから何となくだけど、洋風の建物が見える。
「あぁ、あのレンガっぽい雰囲気の建物ですか?」
「えぇ。…うちの連中、少し騒がしいですけど気の良い奴らばかりなんで、安心してくださいね。」
「はい。」
ミラー越しの笑顔に、通りがかってくれたのがこの人で良かったなぁと心から思った。