第1章 出会い
「だ、大丈夫ですか?!」
真っ黒な車から飛び出して来たその人は、短めの黒髪の優しげな雰囲気の人で…気が緩んでしまった私は地面にへたり込んでしまった。
「あ、と…すみません、急に飛び出して……。」
「いやいや!それよりどうしたんですか?こんな雨の中…ここの林は迷いやすいので危ないんですよ。」
「友達と、旅行に来てて……この嵐ではぐれて道に迷ってしまったんです。あの…街の方まで戻りたいんですけど、どの方向に行けば…」
私の問いかけに、彼の表情が曇る。
そして言いにくそうに口を開いた。
「……実は今、少し先の道路が土砂崩れで埋もれてしまったという話を聞いたので見て来たところで……かなりひどい土砂崩れだったので、しばらくは戻るのが難しいと思います。」
「えっ…………ど、どうしよう…。」
街に戻れないとなると今日はこのまま……?と途方にくれそうになった私に、彼が手を差し出してきた。
「…もう少し奥の方でホテルを経営しているんです。他のお客様もいないので良かったら泊まっていってください。」
「えっ…でも、あの、私お財布落としちゃってお金無いですし……」
「……では、先程轢きそうになってしまったお詫びに、ということでどうですか?」
それは私が飛び出したせいだから、と言おうと思ったけれど……断ってもこのまま凍えるだけで…だから少し躊躇いながらも彼の手に自分の手を重ねた。
「……すみません、お願いします。」
「いえ、気にしないでください。…ちょっと失礼します。」
彼はそう言ったかと思うと私の手を引いて立たせ、体を支えて車の後部座席に乗せてくれた。
それから運転席に座った彼は、思い出したように私を振り返り笑みを浮かべた。
「…そういえば自己紹介がまだでしたね。ホテル・クロウのオーナー兼運転手兼ドアマンの…澤村大地と申します。」
…これが、彼らと私の出会いの始まりだった。