第14章 夜のプリンセスの化身 ーーーーー全員
ーーーとその時、
ちゅっ。
[っヘェあ!?!?]
と叫びかけた口を咄嗟に塞ぐ。いいい今、くくさんがウィッグにキスをーー
[いやだ···ッッッ···やめ···]
ハラハラと、くくさんの前髪が震えながら肩へ落ちていく。
私はキスで完全に固まって、見える面積が広くなる、鼻筋が整った美しい顔から目が離せなくなった。
[ボ···ッッッ、ボクを···]
ハッとした。くくさんの睫毛が、長い髪に引っかかっている。
はらり···。
[ボクを褒めないで···········]
濡れて激しく揺れている瞳が、前髪の隙間から、少し、見えた。
[っっ····!!!!]
くくさんの喉が潰れたみたいに掠れた声が、胸に何かをぐぐっと押し寄せた。
[ボ···ボクを···ッッッ]
くくさんはすぐ顔を下に向けた。
初めて見たくくさんの瞳は、哀しいくらいにキラキラと、星を散りばめているみたいだった。
長い前髪がまた顔を覆う。
[や···[ほらくく。]
私は背中にムカデが上ってきたと思うくらい、ゾゾッッとした。
[早く戻るよ]
振り返ると、そこには案の定着飾った菜太郎がいた。私に一切目を向けず、少し震えているくくさんの腕を引っ張っていた。
[·······]
菜太郎は、そのまま私に何も言わずにくくさんを無理矢理引っ張っていった。
くく··さん··?
私は違和感を覚えた。
あんなに焦ったようで、哀しいような目。
[あっ、いっ、··いらっしゃいませ。ご指名は]
自分でもびっくりする位、男声でスマートに言えた。
[いらっしゃいませ。]
お客様に礼をする。
その日は、少しだけ見えた彼の独特な瞳が、頭の中にちらつき、離れず、なのにとても私はとても冷静で、··終わった。
[ふーっ···]
隼人さんが息をつく。
[山田っ、お疲れ!]
[··]
[山田?]
ハッとした。
[あっ、すすみません!なっ何ですか??]
とニコッと張り付けの笑顔が出来る自分に驚いた。
[随分頑張ったみたいだね~、お疲れ様!]
といつものように眩しい笑顔。カッコいいけど、私は別の人の瞳に気を取られていた。
ボケッとしてたらだめだ。
[なんか元気無いぞ、大丈夫かッッ?]
[っえ!元気だよ!]