第1章 プロローグ
それからしばらくしたある日、エミリーの母はカルト宗教のパンフレットばかり読むようになった。それは先日、エミリーの家に宗教団体が訪ねてきて勧誘をしてきたのだ。母は始めはいい顔をしなかったが次第にカルト宗教にのめり込んでいった。そんな母をエミリーは思わしく思っていなかった。
「ねえ、お母さん。お腹すいたよ。ご飯にしようよ。」
エミリーがお昼の時間になってもパンフレットを見続けている母にお願いした。
「うるさいわね。勝手に食べてなさい!冷蔵庫に何かあるでしょう?」
母は声を荒らげてそう言うとまたパンフレットに目を向けた。
「はあ。」
エミリーは仕方なくキッチンの方へと歩いていこうとした。すると母が読んでいたパンフレットが目に入ったのだ。
「マンソン・ファミリー?」
エミリーは1度は首をかしげたがはっと思いだしたように言った。
「もしかして、1960年代末から1970年代の初めにかけて、カリフォルニア州にて『ファミリー(マンソン・ファミリー)』の名で知られる疑似生活共同体を率いて集団生活をしていた宗教のことかしら?」
「ええ、そうよ。他の宗教にも勧誘されたのよ。」
母はエミリーの鋭い能力にイヤミたっぷりに言った。
「だいたいあなたが変な能力なんて持つからこんなんことになったのよ。」
母は席から立ち上がるとエミリーの肩を掴んだ。
「碌でもない能力を二度と私の前で使わないでちょうだいね。」
そしてエミリーの髪の毛を強く引っ張った。
「痛い!離してよ。」
エミリーは必死にもがいた。それを微笑ましく母親は笑った。
「あなたも随分と落ちぶれたようね。」
母はエミリーを床に叩きつけるように離すと笑いながら去っていった。
この時エミリーはすっかり母に嫌われてしまったのだと悟った。
「なんとかお母さんの気を逸らしてうまくやらないとダメみたいね。とにかくあのカルト宗教に入るのだけはやめてもらいたいわ。」
今は歯を食いしばって母の立ち去った光景を見ているしかなかった。