第3章 光と影
最初はエミリーも人を脅していくことに抵抗や不安があったがジャックがエミリーにひたすら言い聞かせて事なきを得た。
「君はあんなにひどいことをされたんだぞ。少しは人を恨む気持ちがあってもいいんじゃないか?俺らの仲間以外は全員敵だと思え。だってそうだろう?もう彼らはエミリーに期待を抱いていないし、俺らと一緒にいなかったら見捨てられて死んでたかもしれないんだぞ。それでもいいのか?俺はエミリーを見捨てたりしないし、君の能力を買ったんだ。今ここに生かさなくてどうするんだ?みんな君を憎んでいるんだ。だったらみんながいなくなればいいと思ったことはないのかい?」
「少しはある。」
「そうだ。少しでもそう思ってくれるとありがたい。」
こうしてエミリーはジャックに言われた通りに自分へ言い聞かせた。確かにたくさんの人から裏切られた気がするのは自分だけだろうか?大好きだった母も怒り狂ってしまったし学校の友人もエミリーから離れてしまった。兄は兄で話しかけてはくれるがどことなくそっけない。そしてエミリーは気が付いてしまったのである。父がいなくなった途端に家庭は崩壊し、自分は孤立してしまったんだということに。本当ならやり直すチャンスもあったのかもしれない。しかしどこか歯車は狂いはじめ効かなくなってしまったのだ。もちろんエミリー自身も自分を責めて、自分は悪い子だからと思ったこともあった。しかし彼女の運命を大きく変えてくれたのがジャックだった。この世界に入ったからには逃げる所はどこにもない。ただひたすら前に進んで行くだけ。彼らにとってマフィアとは、それだけのことなのである。この世界に入ったからには逃げる道はもうない。ひたすら非現実的な世界に足を踏み入れ成功することを願うばかりである。
「覚悟はできているか?」
エミリーがこの世界に入り衝撃的な出来事を目の当たりにした時ジャックはエミリーにソレを見るように言って合図したことがあった。
エミリーはジャックに言われソレを初めて見たのである。そこには冷たくなって横たわる一人の男性だった。博覧会の後の男性を始末した後だった。
エミリーが彼の腕に触れる時には硬直していた。彼の腕に触れた時は信じられないと同時にこれが人の死なのだと初めて目の当たりにした光景だった。しかし、悲しみはどこかに消え去ったかのように彼女の目からは澄んだ景色しか広がっていなかった。