第1章 プロローグ
そして兄にも積極的に話しかけた。反抗期の男の子はどこの世界でも一緒であろう。両親との葛藤やコミュニケーションが取りづらいなんてことはよく耳にする。だからといって放って置くわけには行かない。どんなにひどいことを言われようが少しの暴力だって覚悟した上で母は息子の部屋に入り話しかけようと必死だった。最初は兄も突っ慳貪な態度を見せて部屋になかなか入れてくれなかったが次第に母を受け入れるようになっていった。
それから両親は別居することになり父が家を出ていく形となった。
「パパ・・・また会いに来てね。」
エミリーは父と抱き合った。
「心配するな。また会いに行くさ。母さんと約束したしな。」
「うん。パパも元気でね・・・。」
やっぱり悲しくてエミリーは泣いていた。しかし、父が慰めてくれた。
「ジェイデンも勉強しっかりしとけよ。元気でな。」
「うん。お父さんも元気でね。高校は通えるように頑張るから。」
兄も父と抱き合って別れを告げた。
バタン!!
父が家から出ていくと母は早速ある行動に出た。
「そうだ、今日は家の中をきれいに片付けましょう。ジェイデンは自分の部屋を掃除しなさいよね。エミリーのは私が手伝ってあげる。」
母は自信たっぷりに言った。
「わかったよ。」
兄は渋々2階へと駆けて行った。
「エミリー一緒にお部屋に行きましょう。」
母はそう言うとさっさと歩いてエミリーの部屋に入った。
ガサガサ・・・。
「お母さん何やってるの?」
エミリーが慌てて自分の部屋に駆けつけると母が今まで超能力の大会で勝ち取ったトロフィーをゴミ袋に入れていた。
「何って、もういらないでしょう?捨ててるのよ。見て分からない?」
「何で・・・私はいるよ~。だから・・・。」
エミリーは必死に母を止めようとしたがその後の言葉が上手く出なかったのだ。
「いるですって?だって大会だってもう出ないしエミリーより上の子がもういるのよ。同じ年の子ならまだしもあなたより年下の子が最年少記録を塗り替えたのよ。もう無理なのよ。だからこんなにあったて仕方ないでしょう?」
母はエミリーの言葉も聞かず次から次へとトロフィーや賞状を捨てていく。
「明日のゴミに出すからね。」
「でも思い出が・・・。」
エミリーはこんなにひどいことはないと思ったのだ。