第1章 プロローグ
「仕方ない、こうなれば母さんは聞く耳を持たないからな。」
父はため息をついた。するとそこに”騒がしいなあ”と2階から兄が降りてきた。
「何だよ。やけに騒がしいじゃん。家族会議?」
「まあ、そんな所かな?母さんが俺と別れてくれだとさ。」
「ふーん。離婚するの?」
兄はそっけなく父に聞いた。
「たぶん・・・いやそうなるだろうな。どんなに説得しても今の母さんじゃ聞かないだろうから。」
「え~?離婚なんて嫌だよ。」
エミリーは父の言葉を聞いて激しく抵抗した。
「エミリー、済まないがこれは仕方のないことなんだよ。」
父はエミリーを抱きしめて言った。
「でもよ~。離婚ってなるとどちらかが家を出ていくんだろう?そうなると子供の俺とエミリーはどっちの親についていけばいいんだ?」
兄は不思議そうに父に聞いた。
「それは離婚届を提出して裁判所の人が決めてくれるんだろうね。一般的には”共同親権”が採られてるのさ。子どもを養育する権利を両方の親が共有すると言われているが今の母さんに子供達を預けて行くのは不安が有るな。」
父は離婚については受け入れたものの子供達を妻に引き取らせていいものなのか悩んでいた。ここ最近エミリーへの妻の仕打ちが日に日に強くなっている気がしたからだ。
ある日エミリーの叫び声がしたため浴槽を覗くと妻が娘のエミリーの頭を湯船の中に押し付けているのが目に入った。父は急いで止めに入って”何をしているのか?”と妻に聞いた。しかし妻はこの時も”エミリーが水が怖いっていうから水につかる練習をしていただけよ”と言い張った。妻はそう言い張っていたがエミリーが何か言いたそうにしているのを見ているとエミリーの辛さが痛いほど伝わったのだ。
そして食事の際はエミリーの分量だけ日に日に少なくなっていった。
「ダイエットしてるのよね。そうでしょう、エミリー?」
妻はそういうが8歳の子がダイエットなんてするのだろうか?そんな目を疑う光景を見てきたのだ。これは虐待だと確信する父と躾と言い張る母との対決がこの日から始まった。