第8章 1月【二人きりの夜ばなし】黒子のバスケ/青峰大輝
青峰さんは、私に渡したい物があるらしい。
寒いからカフェに入るかって言われたけど、もうすぐご飯だからすぐに帰らなくちゃいけなかった。
家の近くの小さな児童公園は暗くなると子どもたちはいなくなってしまう。
夜になるとたまに制服を着たカップルがベンチに座っていて、それを見る度に青峰さんを思い出して、私も高校生になったら青峰さんと…なんて想像したこともある。
まさか今、ここに好きな人と、並んで座ることになるなんて。
ベンチは冷め切っていたから、寒いだろって言われて、大丈夫です!って答えたら思ったより大きな声が出た。
その様子を見て、青峰さんはまた意地悪そうな顔で笑ってる気がした。
ああ、私、何やってんだろ。
せっかく、青峰さんと2人きりなのに。
可愛く映りたいよ。
上手く振る舞えない自分に落ち込んでいたら、頬に熱い物が当たりびくりと体が跳ねる。
「やる」
その正体は、高い熱を保ったままの小さなペットボトルだった。
「あれ…いつ?どこで…」
「コンビニ」
「なんで…カフェ、行く気だったんじゃないんですか?」
「もし外になったらさみーと思って」
それはただのミルクティーなのに、優しさが物凄く詰まっている。
もったいなくて、飲めなくって。
青峰さんにはせっかく買ってやったんだから飲めって叱られたけど、両手でずっと、包んでいた。
「手袋は?」
「あ…慌ててたんで、忘れちゃいました」
青峰さんは隣で大きなため息をついてる。
あー、もう、またやっちゃったかな。
「これでも巻いとけ」
すぐに青峰さんのスヌードが私の首元でぐるぐる巻きになって、私の鼻がその温もりに埋もれた。
すっごくいい匂いがする。なんだろう、香水?
これが、青峰さんの匂い。思わず吸い込みたくなって…
…違うよ、そうじゃない!
「だ、大丈夫です、青峰さんが風邪ひいちゃいます!」
「遠慮すんな。受験だろ?風邪ひかせらんねーよ」
私が無理にスヌードを外そうとしたら、青峰さんの手が私の手に重なって、止められて、そこから私はひとつも動けなくなってしまった。
大好きな人の手が、私を掴んでる。
バスケットボールを片手で掴んじゃうくらい、大きい手だ。
どうして今日は、そんなに優しいんですか?
もう好き過ぎて、熱が出そうです。