第7章 7月【星降る夜、君とふたりぼっち】スラムダンク/三井寿
その後音楽が変わり、職場の同僚たちのメッセージが続いた。
ノトの同僚はハートの風船を使った可愛らしい演出で会場をほっこりさせ、三井の同僚は流行りのダンスで会場を沸かせる。
このビデオは黒木と堀田がいつのまにか作っていたらしい。
思わぬサプライズに、2人の感動は止まらない。
また音楽が変わると、今度は三井の家族が現れた。
お母さんはおめかしして笑って、お父さんはボールを持ったまま直立している。
何も喋らぬ父親とよくしゃべる母親は、いつ会っても仲が良い。
三井の実家にお邪魔すれば、お酒が進むと決まって言うセリフを改めて耳にした。
『寿、ノトちゃんを幸せにしないとダメよ。ノトちゃん、こんな息子だけど、よろしくね』
暖かくて、大好きな家族。
三井の父親の手から右側に流れたボールは、ノトの父親の手の中に。
背景は、ノトが生まれ育った家。
『ノトが小さい頃、私のお嫁さんになると言っていたのがつい先日のようです』
画面の中の父親は、ぎゅっとボールを力強く握りしめる。
その目は涙ぐんでいるように見えた。
その様子を見て、母親は微笑んでいる。
『まず、ノトに詫びなければならない。ノトが嫌がる習い事をさせた事、進路に口出しした事、悪かった。全てノトを思ってのことだ』
苦悩しながら、それ以上の喜びを感じながら、子のことを思わぬ親など、きっとこの世にはいない。
『三井くんの側で、幸せになりなさい』
画面の中の涙ぐむ父親は、今どんな思いでいるのだろうか。
本人を見つめることは、恥ずかしくてできなかった。
『最後に、1つだけ。ノトはいつまでも私たちの娘です。何か困ったことがあれば、いつでも頼りなさい』
私は1人で生きてきた訳じゃない。
父親と母親の愛情の元で、友人に、同僚に支えられながら、そしてこれから三井と共に、まだ生まれぬ小さな命に愛を注いでいく。
全ては、繋がっている。
父親のメッセージを最後に、映像は暗闇にフェードアウトしていく。
ノトの目尻からは、どうしてだろう、涙が止まらなかった。