第7章 7月【星降る夜、君とふたりぼっち】スラムダンク/三井寿
不思議だ。
夏の暑い、星降るあの日は幻想的にすら思えた夜の海。
今日の海は月星の光があるとはいえ、地平線がぼんやりとしてどこまでも闇が続くようで怖かった。
打ち寄せる波に呑み込まれ、このまま攫われてしまったらどうしようか。
ノトは三井の腕を組み、ひっそりと体を寄せた。
「高校んとき、徳男んちでやってたホラーゲームのラスボスがすげー巨大な女だったんだけど、夜の海から波が左右真っ二つに分かれて登場すんだよ。最後の最後にそれがおっかしくて…」
「面白くない」
「…今日は流石に、星は降らねぇな」
三井は何も言わず、ノトの腰を静かに、だけど力強く抱き寄せる。
三井の中にいれば怖いものなんて何もない。
無敵になれる。
身体中に血が巡り、心が温かくなっていく。
「おい、星流れたぞ」
その声につられてノトは空を見上げるが、星は定位置に留まり輝き続けているだけだ。
嘘つきと責めれば、本当だってと三井は目を輝かせている。
しばらく無言で空を見続けていた2人だが、その後、星が降ることはなかった。
「披露宴、どうしても嫌か?」
空を見上げたまま呟いた三井。
その横顔は、何を思っているんだろう。
「…うん。嫌」
「そうか。アイツらに言われて、ノトが楽しめねぇ披露宴じゃ意味ねぇなって思ってよ。親父さん、説得しねぇとな」
「……いいの?」
「でも挙式は絶対やる。親父さんたちには、大事な娘の花嫁姿、見せてやりてぇから」
その横顔は、やはり自分のことではなく、誰かを思っている。