第6章 6月【てるてるぼうずを作ろう】ワンピース/ルフィ
「俺も目の前で兄弟が死んだんだ。大切な人を失うのは、辛ぇ。でもそれで終わりか?お前の人生」
たらふく食べたルフィは満たされたと腹をさすり、テーブルに金貨を置いた。
「手の傷、悪かったな」
ノトの目には、今にも駆け出しそうなルフィに大切な人の姿が重なって映る。
胸の奥で悲しみが蘇り、チリチリと音を立てている。
「待って!」
自身が想像するよりも、大きな声が出た。
ルフィは悲しげな瞳に向かって振り向いた。
「…まだ、街にいるの?」
「いつまでだろーな。船の修理が終わったら出航だ。じゃあな、ノト」
行きずりの人に寂しいなんて、言えない。
ルフィはマスターにご馳走様と大きな声で挨拶をし、うまかったと満足そうに笑みを浮かべ去っていった。
ノトはテーブルに残された肉たちの残骸を眺めながら、向かい側の席にルフィの残像を浮かべる。
あの人は、こんなに食べる人ではなかった。
浮かべていた残像はあの人の影へと変わっていく。
『それで終わりか?お前の人生』
人は簡単に、気持ちを切り替えられる生き物ではない。
マスターにまだしばらく居ても良いかと聞けば、相方の食べっぷりが良かったおかげか優しく笑って、モヒートをサービスして頷いてくれた。
ライムとミントの清涼感がクセになる味だ。
窓の外を眺める。
街からピンク色のシャボン玉は見えなくなったのに、幸せの感情ムードは未だ消えることはない。
そこに馴染めぬノトはまだ外に出る気分にはならず、モヒートのグラスを口元で傾けた。
揺れる氷は早くも溶け始め、グラスは汗をかいている。
コンコンと、ノトの耳に窓を叩く音が聞こえた。
ノトはグラスを置き窓の方を見る。
肩が驚いてびくりと跳ねたと思ったら、ノトは笑い声を殺して今度は肩を震わせた。
ルフィの丸くて柔らかな顔が窓ガラスに張り付いて、可笑しな形に崩れている。
笑が止まらぬノトの様子を見て、ルフィはニシシと笑った。
ノトは笑いの余韻を引きずり、目に涙を浮かべながら外に出る。
「なんかお前のこと、ほっとけねぇんだ。行くぞ」
ルフィはノトの手をがっしりと掴んだ。
彼が指差したのは、小高い丘の上だった。