第6章 6月【てるてるぼうずを作ろう】ワンピース/ルフィ
観光の街、上品な店が並ぶ中でルフィが見つけた場所は「アタリ」だった。
周りの客は地元民か、バックパッカーか、はたまた海賊か。リーズナブルでボリュームのある食事が提供され皆賑やかに食事を取っている。
大きく豪勢な骨付き肉がテーブルに出されれば、ルフィは夢中で頬張り始める。
お前も遠慮せずに食えよとノトも勧められるが、その食べる姿を見ているだけで満腹になりそうだ。
2人が座るのは窓際の席。
ガラスの奥に見える多くがカップルたちだ。
きっと出身も血筋も皆違うのに、誰もが幸せそうにしている。
「ノト、さっきから何ぼーっとしてんだ。食えよ」
窓の外の幸せを眺めていたノトにルフィは怪訝な顔をする。
その理由は単純だ。
美味そうな肉を目の前にして、なぜ口をつけないのかが不思議でしょうがない。
「せっかく連れてきてくれたのに、ごめんなさい。朝と、夜の仕事が終わった後しか食べないって決めてるんです」
「仕事?何してんだ」
「ダンサーです。擦り傷で済んだのは…そのおかげかもしれません。反射的に、体が受け身を取って。自分でも驚いたんですよ」
「へぇ、すげぇな!踊り子がいれば宴は盛り上がりそうだな」
ルフィは勢い良く肉を口に頬張り、慌てるように喉を鳴らして腹の中に詰め込んでいく。
よほどお腹が空いていたのだろうか。
ノトはその姿が純粋で、可愛くて、つい顔を綻ばせた。
ほっとした気持ちから、つい胸に抱えた想いが口から零れ出る。
「テルテルボーズって、知ってますか?」
「テル…なんだ?」
ノトは紙ナプキンの1枚を丸め、もう1枚でそれを丸く包む。
出来たくびれをきゅっと捻れば、テルテルボーズの完成だ。
「本当は、嵐が来ればいいのにって思ってるんです」
「嵐は滅多に来ねぇってうちの航海士が言ってたぞ」
「だから、おまじないです。球体を上にしてぶらさげると次の日晴れる。逆さにしてぶら下げると…雨が降るって言われています」
本当は、この想いを誰かに話すつもりはなかった。
だけどこの「良い人」には、話したい気持ちになった。
行きずりなのに、不思議な人。