第1章 1月【おもち】黒子のバスケ 紫原/火神/青峰
火神大我
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「あけまして、おめでとうございます」
「おう」
「今年も、よろしくお願いします」
初々しい2人が元旦に向かったのは、都内の有名な神社。どうしても初詣に行きたいのだと、ノトが火神に珍しく駄々をこねた。朝は早くに出たつもりだったが大晦日の夜から混んでいたのだろう。人が捌ける様子はない。列の端で参拝に並ぶ2人。ノトは仲見世の品物を楽しそうに眺めながら歩を進めるが、火神はそわそわしている。
ノトはある物に目を惹かれた。漆焼きのはしおき。イラスト風に描かれた猿のデザインだ。ペアを並べれば手を繋ぎ、その2匹の頬は赤く染まっている。可愛いと手を伸ばそうとした瞬間、ぐっと腕を引かれる。
「おい、はぐれんぞ」
「あ…ごめんなさい」
火神が落ち着かない原因は、ノトがふらりと何処かへ吸い込まれてしまいそうだから。火神は腕を掴んだ手をそのまま下ろす。はぐれてしまわぬように、絡めあう指と指。ノトはその手を握り返す。2人の心臓は高鳴っていた。
手を繋いだまま歩を進める2人。ノトはまた、ある物を見つけた。
「見て」
店の奥に祀られた、立派なお餅と取り巻く飾り、頂上にはみかんと扇。そう、鏡餅。
「カガミ餅。伊月さん、初バスケのときに絶対持ってくるよ。カガミくんに」
火神は知るかよとそっけなく答えるが「伊月が言いそうなギャグ」をああでもないこうでもないと一生懸命考えるノトが可愛くて、絡めた指に力を込めた。わずかにしか繋がったことのない、大きくて骨ばった指と細くて華奢な指は、まだ互いにしっくりときていない。何度も握り直しながら、隙間を埋めようとする。
ノトがふと火神を見つめれば、目が合った。火神は目を逸らす。そんな彼が愛おしい。
「私の名前、『モチ』じゃなくて良かったね。もし結婚したら『カガミモチ』だよ」
「…」
「あ。変なこと、言ったよね」
「…『モチ』なんて名前のヤツ、いるのか」
背の高い彼がそっぽを向いたままこちらを向いてくれない。どんな顔をしているのだろう。
緩めない指の力は、決して離すもんかとメッセージを送っている。
火神くん。
神様とあなたにお願いです。
今年も、この先もずっと、一緒にいられますように。