第1章 1月【おもち】黒子のバスケ 紫原/火神/青峰
青峰大輝
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仕事が終わらない。今日は金曜日。毎週、青峰大輝が来る日なのに。
ノトは自宅だというのに、パソコンのディスプレイに向かっている。
青峰に今日はNGだと連絡をしておいた。失敗しても美味しいと口いっぱいに食べてくれる料理を振舞うことも、誘いに乗ってあげることも出来ないのだから。
ガチャリと玄関のドアが開く。
…来ちゃったか。
こちらに向かう足音に、気づかないフリをする。
「ノト?」
「ノト『サン』でしょ?」
「機嫌わりぃじゃん」
「よくご存知で」
彼の気配を真後ろに感じるが、ディスプレイから目を逸らさない。
「おい」
無視をした。
ノトは帰宅後スーツの上着を脱いだのみ、そのまますぐ仕事モードに。今日はシャツスタイル。青峰は、スカートの上にほんの少し乗った柔らかな部分をそっと摘む。
「モチみてぇだよなぁ。ここ」
いつもなら触れられると激怒する恥ずかしい部分だが、今日は本当に、外せない大事な仕事をしているのだ。
「…ノト」
青峰は片腕を肩に回すと、ミルクのような香りのする髪の頂点からうなじへと唇を滑らせ、そのまま首筋と耳へ。ノトはゾクリとする感覚を振り払う。青峰の空いた手はスカートに乗った膨らみを摩り続けるが、しばらくすると、その手は腕の下をすり抜けようとする。
「止めて」
「やっと口きいた」
「大輝、今日は…わっ」
青峰は急にくるりとイスを回す。手の中にいたワイヤレスマウスが派手な音を立て床に落ちる。
「怒るよ」
「帰るよ…キスしたらな」
顎を掴まれれば、唇が降りてくる。
キスは止まない。大きな手がノトのシャツのボタンに触れた。その手を掴むけれど、男子高校生の力は阻止できない。
無理やりキスを解き止めてと睨めば、はいはいと体を離し去っていく。
「…その辺に居るわ」
気付いている。
私は何かに苦しむ彼にとっての、安定剤。
床に落ちたマウスを拾い上げる。
脳に焼きつくのは、寂しげな孤独の瞳。
少しだけ待っていて。
終わったらすぐにでも飛んで行って、抱きしめるから。