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サンロクゴ

第4章 4月 【花と雪、桜の樹の下で】戦国無双/真田幸村





「幸村」




名を呼ばれ、幸村がノトの顔を覗けば驚いた。彼女は泣き出しそうだ。
険しい顔は、次第に優しい顔へと移り変わる。







「どう、されたのですか」




幸村は桜の樹の下、ノトの側に。











思えば、まじまじとノトの顔を見ることはしばらくぶりかもしれない。
こんなにも顔や体は小さく、肌は透き通っていただろうか。長いまつ毛は瞬きに揺れ、柔らかな髪はそよぐ風に揺られている。
舞い散る桜の花びらの可憐さが、彼女の美しさを更に引き立てている。
俯いていた彼女に急に大きな瞳で見上げられれば、幸村はどきりとした。




「幸村」
「…なんでしょうか」









トンッと幸村の胸に軽い衝撃が走る。
ノトの顔が、幸村に埋もれた。
その瞬間、桜の淡い香りとともにふわりと鼻を掠める女の匂いが幸村の胸の奥を刺激する。


「ノト…様…だ、誰かに見られたらどうするのですか!離れてください」
「嫌」
「頼みます、どうか、ご勘弁を…」

慌てふためく幸村の様子に、ノトはそっと顔を離す。
幸村は顔を赤く染め、言葉が上手く出ずに唾を飲んだ。





「幸村」
「な、なんでしょうか」
「お願いがあります」






ノトは、幅の広い幸村の肩から伸びる逞しい二の腕をそれぞれ、ぐっと手で掴む。



「私も、いつか死ぬのでしょう。もしも何かを後世に残すなら…それはあなたが良い」





桜の花びらとともに散るのは、ノトの涙。






「戦から帰ってきたら、あなたの子を宿したい。あなたがいつか戦場に魂を置いてくるのなら、私はあなたの血と肉を」






幸村は美しいノトの涙に見惚れ、そっと頬の下に流れる煌きに手を伸ばす。
拭いても止めどなく溢れるその涙をなんとかしようとする幸村は、屈みノトと視線を合わせ、満面の笑みを送る。






「泣くのはお止めください。約束いたします。幸村は必ず戦に勝ちます。そうしたら私の……子を……?」






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