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サンロクゴ

第4章 4月 【花と雪、桜の樹の下で】戦国無双/真田幸村







「…雪、降らないかな」




ノトは空に手を伸ばした。


はらはらと舞い散る花びらが、止めどなく降り注ぐ雪に変わればいいのに。
雪が積もればあなたの花を咲かせずに、ここに留めておくことが出来るのに。


そんな幻想を思い描いては苦しくなって、くのいちの肩にそっと頭を乗せる。


「少し、貸してね」
「…いつでもどうぞ、姫様」


身を預けたその体は、細く柔らかい。
1枚の花びらがノトの頭に舞い降りる。
くのいちはそれをふわりと払い、頭を撫でた。

この小さな体で、彼女は幸村の危機を何度も救ったのだろう。
私にできることは、何だろうか。
幸村のためにーー










「兄上!」



幸村が動きを止めれば、視線の先には信之がいた。


「おや、ノトも一緒か」


優しくも厳しい信之はノトにとっても本当の兄のようで、昔から慕っていた。
ノトは立ち上がり、2人の元へ爛々と駆け寄る。


「ノト、また勝手に来たのか?」
「大丈夫だよ。もう大人だもん」
「兄上、どうされたのですか」
「ああ、幸村を呼びに来た。軍略会議もそろそろ大詰めだ」





2人の顔が引き締まる。
戦の始まりが、近づいている。





汗を拭ってから来いと、信之は先に屋敷に戻っていった。
幸村は険しい顔のまま体を拭き、着物を整え始める。
ノトはかける言葉も見当たらず、桜の樹の下へとつまらなそうに戻る。



「くのちゃん。私、先に帰るね」
「……」

笑ったつもりでも、上手く笑えなかった。
そんなノトの鼻の頭に、音も立てずにまたも1枚の花びらが。
くのいちは、そっとその花の欠片を手に取った。


「人はいつ死ぬか、分かりません。もちろんノト様だって同じです。伝えたいことは、伝えた方がいいと思います」


なーんて、しがない忍びの戯言ですとくのいちは大きく笑い、ノトの頬に優しい口付けをする。

「またね、ノト様」

人差し指を自身の唇に立てれば、急に吹く春風のように彼女は姿を消した。
生まれた風圧で地に落ちた幾つもの花びらたちが大きく舞い上がり、ノトの周りに再び降り注ぐ。







無数の花びらの奥に見える恋しい人。
桜の樹の下、あなたと2人きり。




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