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サンロクゴ

第4章 4月 【花と雪、桜の樹の下で】戦国無双/真田幸村






「幸村様、戻りました」



足音も立てず幸村の目の前に現れ跪くのは、幸村お付きの忍び、くのいちだった。彼女と幸村は初陣のときから対をなし、厚い信頼を築いた相棒だ。

「敵の様子は?」
「次の戦、情報が漏れぬよう徹底している様子。しかし冬からの運び屋の動きを見る限り、大量の銃が使用されるのではないかと推測されます」
「そうか。父上には?」
「報告済です」
「いつも助かる。ご苦労だった」
「はっ、有り難きお言葉」




用が終わる頃を見計らいノトがくのいちの名を呼べば、彼女は鋭い忍びの顔を止め可愛らしい女性の顔で笑う。


「ノト様!お久しぶりです」
「こっちおいでよ」
「そんなぁ!忍びが姫様の側になんて、ダメっスよう!」
「来て」




困った顔を見せた後、彼女は素直にノトの前に来て跪く。



「くのちゃん、そんなのいいから、隣!」
「…えへへ、失礼します」



くのいちは年の頃も同じということもあり、ノトにとっては良き友だった。
こうして時たま目の前に姿を現せば、必ず捕まえておしゃべりをする。

2人で桜の樹に背をもたせ、春の陽気を浴びた。
幸村は相変わらず、1人槍を振り続けている。



「戦、始まるんだね」
「春になりましたからねー」
「くのちゃんは、怖くないの?」
「何がスか?」
「……死ぬこと」
「…にゃは、もう、姫様はそんなこと考えなくたっていいのに!」



くのいちは、忍びにそんな質問は愚問だと笑った。
そして泣きそうなノトの心の内を、悟った。




「…幸村様は、真田というもののふの生き様を後世に残すために生きています。それが為せるなら死すら本望。そうゆうお方です」








彼はまるで桜だ。
儚い命だからこそ、その美しい残像と思い出は人々の記憶と心に強く刻みつけられる。

ただ一つ違うこと。
あなたは一度散れば二度と咲かぬ、大輪の花。

桜なんかよりずっと尊く、綺麗だ。





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