第4章 4月 【花と雪、桜の樹の下で】戦国無双/真田幸村
ノトは樹の下に座り、幹に背をもたせる。
「信之は?」
「父上のところです」
幸村の兄、真田家の長男である信之は近頃、稽古だけではなく様々な会議や外交、政務に携わることが増えた。
桜の樹の下で兄弟が揃うことも、時が経つに連れ少なくなってきたことは寂しい。
「真田の軍略があれば、必ずや次の戦も勝ちましょう」
ノトは、自信と誇り、興奮に目を輝かせる幸村を見て確信をする。
こんなにも晴々とした春に行われるのは戦会議。
始まるのだ、戦いが。
1人槍を振る幸村。
今彼が見ている景色は戦場で、多くの雑兵に取り囲まれている。
彼の振り回す槍は多くの敵を薙ぎ払い、中には怪我で済まずに命を落とすものもいるのだろう。
しかし幸村は、槍を振り続けている。
目の前に咲く花は、彼の目には映らない。
鬼気迫る表情。
こもる熱のせいで帯より上の着物を脱ぎ払い、剥き出しになる上半身。
煌く汗より、鍛え上げられた美しい肉体より、ノトの目が向かう先は無数に刻まれた傷跡だ。
心が痛み、視線をぐっと足元に逸らす。
すると目に映るは、舞うような槍さばきの下で踏み潰されていく可愛らしいツクシたち。
幾年か前の事、幸村が初陣に出ると知った日。
声を立て泣きわめき、行かないでとその服の裾を掴んで離さなかった。
すると幸村は困ったような顔で、でも大真面目に言うのだ。
『死が怖いのですか?人はいつか死ぬものですよ。私も……例えあなた様であっても』
そんな当然のこと、春の陽気で忘れてしまいたい。
踏み荒らされる雑草にも耐え切れずに天を見上げた。
美しい花がひらりと舞い落ちてくる。
大好きな桜までもが命を削っていく様を見せつける。
花は散るから美しい。
誰がそんな歌、詠んだのだろうか。
自然の摂理に埋もれるのが和の心ならば、私は人で無くなってもいい。
恋い焦がれるあなたを、失いたくないと思っている。