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サンロクゴ

第4章 4月 【花と雪、桜の樹の下で】戦国無双/真田幸村







鳥のさえずりにノトは目が覚める。
起きて障子を開ければ、空は雲ひとつない晴天。当分雨は降らないだろう。先日満開になった桜の花たちも、今年はしばらく咲き誇ることができそうだ。


このように天気の良い朝、あの人の向かう先は決まっている。


ノトは音を立てぬよう軽装に着替えれば、天日干ししようと部屋の隅に置かれたもう1つの枕を布団に詰め込み変わり身の術をかけ、草履を履いて外へ飛び出した。










あの大きな、桜の樹の下へ


















武田家の姫であるノトは昔からお転婆で、同じ年の頃の真田兄弟の稽古に内緒でついていき、幼い頃は真似て木の棒を振り回していた。
内緒の行為が見つかれば今でも身の回りの世話をする教育係の乳母に叱られる。ただの真似事では剣の技術は全く身につかなかったが、おかげで逃げ足だけは早くなった。


真田兄弟の稽古場所はいつも決まっていた。
近くの大きな、桜の樹の下。
春のこの時期だけは、ノトは稽古の真似事を止めた。ただひたすらに樹を見上げてはその匂いを求め鼻で大きく息を吸い込み、ひらひらと降り注ぐ淡い色の花びらと共に舞い踊る。
雨が叩きつければ、強い南風が吹き付ければ、儚く散っていく短な命。
その生命を、こよなく愛でた。





春は嫌いだ。
けれどこの花は、大好きだった。
















遠くに大きな桜の樹が見えた。
その下で槍を振る、あの人の姿も。
ノトは駆け出した。
一刻でも早く、あなたに会いたい。
一刻でも多く、側に。



「幸村!」
「ノト様。おはようございます」



肩で弾ませた息をノトは整える。
大人になった彼の精悍な優しい微笑みと、その後ろで散りゆく花びらたちの儚さはなぜか絶妙に相まって、綺麗だ。




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