第3章 3月【第二ボタンは誰のもの】黒子のバスケ/青峰&???
彼の視線が、上を向いた。
つられて振り返ればそこにいたのはーー
「…ざけんなよ、テツ」
すみませんと、黒子は2人の側をそっと去ろうとする。
「ノトさん、今日はありがとうございました」
「黒子くん、私…」
「何も言わないでください。大丈夫」
黒子は柔らかく微笑んでいる。
ノトは言葉を、飲み込んだ。
「青峰くん。またバスケ、しましょうね」
「…当たりめぇだろ」
その背中が小さくなるまで見送る青峰の顔を、ノトは覗いた。
目が離せなかった。
どこか、悲しそうだったから。
「…黒子くんと、別の学校だもんね。あんなに仲良かったのに」
「…お前とも」
青峰の大きな掌が、頭のてっぺんをふわりと撫でた。
「別々になっちまう」
ノトの頬が赤く染まり、彼を見上げる。
「…あー、その顔、やめろ」
抑えきれぬ衝動で青峰がぐっとノトを抱き寄せれば、彼はその頭に顔を埋めた。
「もうノトに会えねぇとか、考えらんねぇよ」
ただただ、大好きな声がノトの耳から脳に響いていく。
「俺の側にいろ」
青い青い空の下。
青峰はノトの返事を求め、抱いていた体をそっと離す。
ノトは弾む息を押し殺す。
震えるノトの肩に乗せられたままの大きな手を、小さな手でぎゅっと握れば、ノトは青峰の瞳を見つめた。
「…私も、側にいたい」
「!」
「好き…だよ」
ふとノトは気がついた。
青峰のブレザーに、第ニボタンがないことを。
「ねぇ、ボタン。どうしたの?」
「ボタン?」
「まさか、誰かにあげちゃった!?」
「あー」
青峰が、ポケットから取り出したもの。
「よく分かんねーけど、黄瀬がお前に渡すと喜ぶっつーから、取っといた」
ずっと恋い焦がれていた人の、制服の第ニボタンが、手の中に。
「…宝物にする!」
別れのときは、新しい何かが始まりを告げるとき。
飛び立とう、未来信じて
卒業式は、2人の物語の始まりの日となりました。
END