第5章 友達以上は、何て言うの
「わ、っとと、」
人にぶつかりそうになりながらも追いかける
と、
突然、腕を前に引っ張られた。
びっくりして引っ張られた方向を見ると
「大丈夫か?」
渋谷さんが、わたしの腕を掴んで引き寄せてくれていた。
、渋谷さんって、力、強かったんですね。
その細い体のどこにそんな強さが、
スッと絡め取られる、手。
「すまん、最初っからこうしとけば良かったやんな」
力強い目で見つめられる。
手を、繋いでくれた。
今は、いつもみたいに、笑うとこじゃなかったんですか…?
なんで、今、そんな、真剣な顔を、しているんですか?
胸が、きゅぅ、と締め付けられて、苦しくなる。
手を繋いだ状態で人混みをまた、進み出す。
今度は、手を繋いでもらっているから、上手くすり抜けられる。
「…ありがとう、ございます」
「おん」と少し振り返って笑いかけてくれる。
…どうか、夜だから、この真っ赤な顔を、
見られていませんように_____
人混みを抜け、人通りのない小道に入る。
なるほど。この道なら騒がれることもない。
先ほどの人ごみも、人が多すぎてちょうど良いカモフラージュになっていたのだろう。
ただ、わたしには、今、大変なことが起きている。
手
手が、まだ繋がれたままなのだ。
ギュッと力が入っていて、離される気配がない。
あと、無言。
でも、不思議と心地悪さは感じない。
…わたしの手、べとべとしてないよね?と心配になりながらも少し渋谷さんより遅れて歩く。
並ぶと歩きにくいほどの小道ということもあるが、並ぶのに勇気が出ないというのもまた事実。
すると、ピタッと渋谷さんが止まった。
急に止まったので、反応が遅れて少しぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさっ、」
「霄ちゃん、ここや。」
見ると、小洒落た雰囲気の隠れ家のような居酒屋があった。
賑やかな声が少しだけ外に漏れてきている。
横スライド式のドアを開け渋谷さんが足を踏み入れる。
つられてわたしも入る。そっとドアを締めていると、レジカウンターにいた店員さんに「渋谷です」と言っていた。
「お連れの方ですね」と店員さんはにっこりと微笑み、わたしたちを奥の個室へと案内した。