第6章 誰為、己為
「っ、」
泣いてる場合じゃないのに
恐怖からか、
それとも安堵からか、
涙が溢れる。
わたしが泣くことなんてないんだから。
お友達です。
その一言すらも言えないなんて。
まるで、すばるさんとは知り合いでもないかのように振舞わなきゃいけない。
やっぱり、世界が違うからかな
演劇とか、ステージに
部外者が上がったらいけないもんね。
許された人しか、上がってはいけないステージにでも、
わたしは上がろうとしてしまっているのだろうか。
スポットライトなんて当たらない。
そんなことはいい。
それよりも、
あの人たちの方が大事。
プライベートですら許してもらえないの?
誰にだって、仕事の面と私生活の面はあるでしょう?
それすら許されないのが芸能人だって言いたいの?
沸沸と怒りに似た感情が湧いてくる。
わたしが守るなんて大それたことは言えないし、出来ない。
でも、なんとか、わたしだけで対処できないかな…
すばるさんに言ったら多分心配かける。
わたしなんかのことで悩ませたりしたくない。
秘密にしなきゃ。
でも、明日もまたあの男の人が来るかもしれない。
いや、もしかしたらあの男の人じゃない他の記者も来るかもしれない。
問題は先送りにできない。
本当に泣いてる暇はない。
悲劇のヒロインにだって、なってやんないんだから…
…でも、全く対処の仕方がわからない。
ちょっとだけ。
ちょっとだけ、力を借りてもいいだろうか。
もちろん、すばるさん以外で。
ブブッ
帰宅途中、ケータイが震える。
見ると、珍しい人物からだった。
『突然すみません。
あと今回の投稿の件、みなさんにもご迷惑をおかけしてしまって…
今日、帰宅途中に記者と思われる男の人に話しかけられてしまいまして…
一応、今日は回避できたんですけど、今後どう対処したらいいでしょうか…
教えていただけたら幸いです。
どこまでもご迷惑おかけしてすみません!』
ずいぶんと長い文だ。
しかも内容がぐちゃぐちゃにも思える。
少し混乱しているのかもしれない。