第6章 誰為、己為
安「チンパンジーでーすっで!痛い!!」
お返しにヤスの耳を両方とも引っ張る。
「ほんま…
敵わんわぁ」
安「んー??
あ、みんなにも報告せなっ
待っとるで?」
行くでー!とヤスがドタバタと走り出す。
今まで
閉じ込めようとしていた、
この想いに
許しが出た気がした。
「渋谷すばるさんとは、どういったご関係です?」
男が言う。
「…質問の意味がわかりません。
なぜ、わたしのことを浪花霄さんだと仰るのかも。」
ポケットからケータイをとりだす。
「おや?
もしかしておまわりさんでも呼ぶおつもりですか?」
そんなこと、日常茶飯事とでも言いたげに
余裕ぶる。
「…いえ。
呼ぶ前に、
録音でもしようかと。」
「録音…?」
「だって、証拠とかないと、
相手にされない場合もあるでしょう?
証拠を持って交番に行ったほうが
状況もわかりますし。」
尾行云々でわたしのことを
掴んだだろうから。
被害などによっては
何かしらの行動が起こされるはず。
よくわかんないけど、
ないよりはマシなはず。
「そうですか…
それは困りますねぇ。
じゃ、今日は諦めます。」
そう言って、
暗闇へと消えていった…
あれは、
諦めてなんかない。
わたしの、
素人の脅しなんか全然効いてない。
それでも、今日は回避したことに違いはない。
さきほどまで、自分の中の
張り詰めていた部分が解けていく。
ガクッと膝から崩れそうになるのを堪え、
周りを警戒しながら、
今度こそ家へ向かう。
気温とはまた違う、
寒気がした。
「ただいま~」
「「「おかえりー」」」
家族3人と3匹のおかえりを聞くと、
そのまま自分の部屋へと階段を上がる。
扉を閉めると、
その扉に寄りかかってズルズルと崩れる。
怖かった
何が、とかじゃなく、
直感的に"怖い"と感じた。
それと同時に、
どういう対応すれば、すばるさんに迷惑がかからないか。
あの対応で良かったのだろうか。
どう返したらいいか全然思い浮かばなかった。
あんな出来事があるだなんて、今までじゃ全く想像つかないし。