第6章 誰為、己為
わたしは、問題を読み間違えてたんだ。きっと。
むしろ問題用紙自体が、間違えてわたしに配られてただけかもしれない。
『だから、先輩、ぼくじゃ、だめですか』
…うん??
『どういうこと?』
既読がついたかと思うと、電話がかかってきた。
「、もしもし…」
『浪花先輩、好きです』
『前から、好きでした。ぼくと付き合ってください』
電話だから表情はわからない。けど、声はとても真剣だ。
「井浦くんたちに言えって言われた?」
またからかわれてるのかな
『違います。ぼく自身の言葉です。前々から、からかってるって思ってたみたいですけど、でも、本当なんですよ。確かに井浦先輩達は面白がってはいましたけど…』
う、うそ
誰かに好意を持たれることは、誰からであれ、嬉しい。
でも、
もし、問題用紙自体が、配り間違えでも、
わたしはもう、出逢ってしまった。
出逢ったことを、なかったことになんか出来ない。
…したくない。
なかったことにすれば、すばるさんにだって、もう二度と迷惑はかからない。
でも、わたしは、嫌だ。
これはわたしのわがままだ。
「…藤村くん、」
『…はい』
「わたしも思うよ。あの人と自分なんて絶対つりあわないって。その通りだと思う。知ってる。世界が違うよね。…でもね、わたし、もう前よりも、あの人のこと、知っちゃったんだと思う。あの人のことだけじゃなくて、あの人をとりまく周りのことも。
出逢ったこと自体が偶然だけど、でも、出逢わなかったことになんか出来ない。
したくない。
お友達だけど…でも、わたしあの人のことが好きみたい。きっとこの想いが重なることはないけど、それでも、今のまま、変わらずに、いたい。」
全然、泣くことなんかないのに、
なんで泣いてしまうんだろう。
いっつもそう。
何故か自分の考えを話してる時、途中で涙が出てしまう。
「だからごめんね…?それと、好きになってくれてありがとう」
わたしのこの拙い言葉で、伝わっただろうか…
『…やっぱり敵わないですよね。』
「え?」
『渋谷すばるにも、浪花先輩にも。』
「…わたしにも?」
『はい。あっ、その、』
「なに?」