第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
二日後。
私は精密検査を受けに政府系列の病院へ来ていた。一通りの検査が終わり、結果待ちをしているところである。薬研が気を使って色々と話しかけてはくれるものの、ちょくちょく訪れる沈黙が痛い。体調そのものは高熱を出したことが嘘のように元に戻っている。それだけに待つ時間が長かった。
名前を呼ばれて診察室へと入る。緊張した面持ちで椅子に座ると、女医の先生が問診票を見ながら口を開いた。
「身体的な異常は何もないので心配しなくても大丈夫ですよ。脳波も心電図も正常だし、レントゲンやCTの映像にも異常はありません」
ホッと胸をなでおろすと、先生は問診票から私へと視線を移した。
「ただ……一つ気になるのはこれなのよね」
問診票の一番下の欄を指差すと、私の目をしっかりと見て先生は問う。
「恋人の存在を忘れているらしい……って、具体的にはどういうことかしら?」
まさかの質問に一瞬戸惑った。なんでもいいから以前と違うところは全て書け、と言われてとりあえず書いたことを質問されるとは思っていなかったのだから。
「えーと……そのままです。私、自分に恋人がいることも、それが誰なのかも、そもそもその人が存在することも憶えてなかったんです」
「そう……不躾なことを訊くけど、その恋人って貴方達のどちらか?」
先生は私ではなく後ろに控えている薬研と大倶利伽羅さんに向けて質問する。私も思わず二人に視線を移した。薬研は視線で答え、大倶利伽羅さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。リアクションから察したのだろう、先生はそう、と呟くと視線を落とした。
「少し酷なことを訊くけどいいかしら。もしかしたら貴女、彼のこと怖いと思ってない?」
「‼︎」
いきなり核心を突いてきた質問に、思わず口ごもる。どうしてわかったのだろう。私はずっと、彼が怖くて仕方ない。この二日間、なるべく彼を避けてきた。黙ってしまった私に、先生はやっぱりねと呟き一枚の紙を取り出して言った。