第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
「おい式神、刀帳を見せろ」
大倶利伽羅さんは静かに、だけどどこか怒っているみたいな声でこんのすけに詰め寄った。
「大倶利伽羅様、一体どうなさったのですか?」
こんのすけは不思議そうに尋ねながら刀帳を取り出すと大倶利伽羅さんに渡す。受け取って最初のページを私に指し示しながら、大倶利伽羅さんが口を開いた。
「今の主は俺のことを忘れている。山姥切のことは覚えているようだが、もしかしたら他にも忘れている奴がいるかもしれないからな」
「なんだと……⁈」
山姥切が息をのむ。薬研は辛そうに瞳を伏せた。こんのすけは言葉もなく固まっている。皆の反応を見て、一つわかったことがある。大倶利伽羅さんは私のことをとても大切にしてくれていたようだ。山姥切が労わるような視線を彼に向けている。こんのすけは自分でよければモフッてくれ、とわざわざ彼の前にまで移動した。慰めているつもりらしい。それを華麗にスルーして、大倶利伽羅さんは私に刀帳を渡した。確認しろ、と促されて最初から念入りに刀帳へ目を通す。まだいくつか空欄のある刀帳には、顔馴染みの刀剣男士達が載っていた。私の大切な刀剣男士達。忘れてなんかいなかった。ただ一人、彼を除いて。
「どうだ大将、知らない奴はいるか?」
「覚えていない奴がいたら教えてくれ」
薬研と山姥切が不安そうに私を覗き込む。なるべくいつも通りの表情を浮かべて見せながら、全員を見渡した。皆、私の言葉を待っているようだ。
「忘れてなんかないよ、みんな覚えてる。みんな私の大切な刀剣男士だもんね」
薬研と山姥切がホッと息を吐く。こんのすけは何か言いたげに私の方を見ていたけど、何も言わなかった。
「とりあえず一安心か。だがどうして大倶利伽羅のことだけを忘れているのかが問題だな」
「あれだけ想い合ってたんだから、例え他の奴らのことは忘れても恋仲の旦那のことだけは忘れないって方がありそうな気はするがなぁ」
「……えーと、もしかして私人目も憚らずにいちゃいちゃしてた?」
「いや、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいの純愛っぷりだったぜ大将」
「え、それかなり恥ずかしい」
その時私は気づいていなかった。大倶利伽羅さんが血がにじむほど下唇を噛みしめながらぎゅっと拳を握りしめていたのを。