第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
「大倶利伽羅の旦那も気の毒に……大将、本当に何も覚えてないのか?」
「ねぇ薬研、彼……大倶利伽羅さんてどんな人?」
「どんな人って、大将が一番よく知ってるはずなんだがなぁ……」
わからないから聞いているんだけど。まぁ、ここで言い合っても仕方ないから薬研の言葉を待つことにした。
「んー、一言で言やぁ不器用だな。馴れ合うつもりはないとか言っておきながら気配りも気遣いも一級品だ。でもあの強面のせいで損してる。仲間思いで真面目なのが裏目に出がちな、貧乏くじ引くタイプってとこかな」
「へぇ……」
意外と言えば意外な答えが返ってきた。クールで寡黙な一匹狼タイプを見えたけど、そうでもないらしい。それどころか結構いい人っぽい。だけど何故だろう、私は彼が怖い。言いようのない恐怖が、奥底からじわじわと湧いて出てくる。
「主、入るぞ」
タイミングを見計らって来たかのように、山姥切の声がする。どうぞと応えて中に入ってもらう。難しい顔をして入室してきた山姥切は、私を見て少しだけホッとしたように表情が緩めた。
「もう大丈夫なのか?」
「心配かけてごめんなさい、山姥切。いつも通りとまではいかないけど、もう大丈夫よ」
なるべくいつも通りに見えるように笑って答えると、安心したようだ。布団の近くに腰を下ろす。一歩遅れて大倶利伽羅さんが入って来て、静かに襖が閉じる。何故か少し離れた場所に座り、薬研に話しかけた。
「式神を呼んでおけと言っただろう」
「こんのすけなら大将が呼べばすぐに現れるさ」
ああ、そういえはそんなこと言ってたっけ。短くこんのすけ、と呼ぶとすぐに枕元に現れた。
「お呼びでございますか、審神者様。お加減はいかがでしょうか?」
「ありがとう、こんのすけ。もう大丈夫よ」
もふもふした毛並みを撫でてやると、こんのすけは気持ちよさそうに目を細めた。