第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
怖い。
密室ではないけれど、見知らぬ男性と部屋に二人きりという状況に耐えかねて声を上げようとしたその時、襖がそっと開いた。
「大倶利伽羅の旦那、昼餉ができたぜ少し代わろう……って大将⁈目が覚めたのか⁈」
「……薬研」
「薬研……え?薬研?」
部屋に入ってきたのは白衣を着て眼鏡をかけた、見知った顔の少年だった。薬研藤四郎。私が初めて鍛刀した刀剣男士。短刀にしては珍しく戦場育ちで医学の心得があるから、おそらく彼が中心になって看病してくれたのだろう。良かった。とりあえず知ってる顔がいて。最低限のコミュ力しか持ち合わせていない身にはいきなりイケメンと二人きりなんて荷が勝ち過ぎるってものですよ、ハイ。
「大将、気分はどうだ?だるかったりどこか痛んだりしないか?」
「まだ少し身体がだるいかな?でももう大丈夫だよ」
枕元まで来て額に手を当てると、安心した顔で薬研は笑った。
「熱は下がったようだな。大将、食欲はあるか?何か食べられそうなら燭台切の旦那に粥でも作ってもらってくるが」
「うん、お粥なら食べられそうかな。あ、でもそんなに沢山はいらないよ?あんまりお腹空いてないし」
「わかった。用意ができたらここへ運ぶから、大倶利伽羅の旦那もう少し大将を頼む」
「え、あ、薬研⁈」
言うが早いか、あっという間に踵を返して行ってしまった薬研にイケメンは黙って頷くと、起こしていた私の身体をまた横にならせた。
「粥ができたら呼んでやる。もう少し休め」
「あ、ハイ、わかりました」
どうしようまた二人きりだ……。イケメンは気まずい沈黙を物ともせずに座っている。本当に彼は一体何者なんだろう。パッと見お医者さんには見えないし、政府の人でもなさそうだ。となると刀剣男士……?でも私には見覚えがない。こんな刀剣男士、私の本丸にはいなかった、はず。なのに薬研は普通に話しかけていた。当たり前のように彼の存在を受け入れていた。どういうことなのか混乱するばかりで再び恐怖が首をもたげてくる。