第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
誰かが呼んでいる。
真っ暗闇の中、一本道を歩く私を導くように誰かが呼んでいる。私はその声のする方へ進んでいるのに、声の主の姿は見えない。どれ位歩いたのか、ふと見ると光が差し込んでいた。そこには誰かが立っていて、私を呼んでいる。そちらへ進もうとしても、足が重くてなかなか前に進めない。引きずるようにして足を運び、もう少しというところまでやって来た。光を背に立っているその人の姿は見えないけれど、とても懐かしい気配がして私は必死に腕を伸ばす。届かないのは承知の上で伸ばした手を、その人は握り返してくれた。
冷たい手。
その手に引き上げられるようにして、私は目を覚ました。
「っ⁈」
目を覚ますと見知らぬ男の人が目の前にいた。褐色の肌に金色の瞳。心配そうに私を覗き込んでいたけれど、目が合うとほっとしたようにその双眸を緩めた。誰、だろうこのイケメンは。見覚えのない顔に覗き込まれて固まっていると、冷たい手が額に触れた。
「熱は下がったようだな。具合はどうだ?」
「え……あの……?」
どうやら私は熱を出して臥せっていたらしい。頭の横に濡らした手ぬぐいが落ちている。冷たい手の持ち主は額から手をどけると、手ぬぐいを拾い上げて手桶の中にいれた。夢現だった頭がちゃぷ、という水音で冴えていく。ここは……ここは私の本丸の私の部屋。私は審神者をしている。ここ2、3日体調がすぐれなくて寝込んでいたんだっけ。少しずつ思い出していく内に、一つ重大なことに気がついた。目の前のイケメンを、私は知らない。なのに片手はしっかりと彼の手を握っている。離すまいとでもするかのようにしっかりと。そしてそれは彼も同じようで、しっかりと握り返してくれているのだ。頭が冴えていくにつれ、静かに降り積もるように恐怖が増していく。
どうして私は知らない人と手をつないでいるのか。彼はどうしてここにいるのか。そもそも彼は誰なのか。
何もわからないまま、恐怖だけが私を支配していった。