第2章 濡れた肩を寄せ合う雨宿り 【山姥切国広】
そろそろ花火の上がる時間だからか、皆が開けた場所へ移動している。私達も良く見える場所へ移動を始めたけれど、さっきから一言も話していない。金魚掬いの屋台を出てから、まんばはずっと難しい顔をして黙っている。私もなんだか話しかけづらくて黙ったまま、並んで歩いていた。それでもいい加減沈黙に耐えられなくなって、何でもいいから話しかけようと意を決した時、空から冷たい雫が落ちてきた。雫はパラパラと音を立てて落ちてきたと思ったら、あっという間に激しい雨となって降り注ぐ。慌てて雨宿りしようとしても、軒先やテントは他の審神者達で一杯だった。
「こっちだ」
不意にまんばに手を引かれた。人混みとは逆方向へ走り出す。慣れない下駄で上手く走れない私の手を引いて、まんばは大きな木の下へと誘導してくれた。
「ここならなんとかしのげるだろう」
「ありがとう、まんば。そうだ、コレ使って」
巾着からハンカチを出して渡そうとしたら、押し戻されてしまった。
「俺はいい。あんたの方が濡れてるからあんたが使え」
「でも…」
「人間は身体を冷やすと風邪を引く。早く拭け」
つっけんどんな物言いだけど、私の事を気遣ってくれるのが嬉しくて、つい笑みがこぼれた。
「何を笑っている」
「うん、まんばは優しいなぁと思って」
「っ!…だからからかうな」
またいつもの布を目深に被って下を向いてしまった。怒らせちゃった…かな?
「からかってなんかないよ。まんばはいつも優しいもん。今日だって出目金獲ってくれたし、さっきは早く走れない私に合わせてくれた」
本当にそう思っているのだと伝えたくて言葉を重ねるけど、まんばは顔を上げてくれない。
「まんばはいつも優しくしてくれるから、大好き」