第2章 濡れた肩を寄せ合う雨宿り 【山姥切国広】
「あー!また破れちゃった!!あの黒出目金絶対獲ってやる!!!」
ポイに貼られた紙が破け、ちゃぷんと音がした。狙っていた黒出目金は涼しい顔で泳いでいく。おじさんに料金を払って、これで5個目となるポイを受け取る。金魚掬いは割と得意な方なんだけど、ここの金魚達は妙に活きが良くてかなり苦戦していた。特にさっきから狙っている黒出目金は元気が良すぎてポイを破られてばかりだ。
「あ!また破れた…でもまだ紙半分残ってるからいいよね?おじさん」
「お嬢ちゃん頑張るねぇ…おまけで良しとしといてあげるよ」
苦笑するおじさんにお礼を言って、まだ半分紙が残っているポイを構える。黒出目金の動きに集中しようとしたら、まんばが隣にしゃがんできた。
「あんた下手だな。貸してみろ」
私の手からポイとお椀を取り上げると、黒出目金に照準を合わせた。
「あれを獲ればいいんだな?少し待っていろ」
そう言うとまんばは黒出目金を角に追い込むようにして、半分しか紙の残っていないポイであっさりと掬い上げた。
「そら、これでいいんだろう?」
お椀の中には黒出目金が一匹。今までの私の挑戦は何だったのかというくらいあっけなく獲れたそれを差し出され、呆然と受け取った。
「ありゃりゃ、獲られちまったか…良かったねお嬢ちゃん、彼氏さんが獲ってくれて」
おじさんは笑いながら黒出目金を金魚玉に移してくれた。ここはよくあるビニール袋じゃなくて、上に穴の開いたガラス製の金魚玉を使っているらしい。でも風情があっていいなんて思ってる場合じゃない。なんか今爆弾発言があったよね?
「俺は彼氏じゃない、ただの護衛だ」
「ありゃ、そうなのかい?仲が良いからてっきりそうだと思ったら…悪かったね、お嬢ちゃん」
一刀両断したまんばに、おじさんは色々察してくれたようだ。気にしてないと言いながら金魚玉を受け取って、屋台を後にした。
…ただの護衛、か。
胸の奥に陰が刺した気がした。