第2章 濡れた肩を寄せ合う雨宿り 【山姥切国広】
思わず溢れた言葉に、まんばはハッとして顔を上げた。怒ったような表情で何か呟いている。
「……とか言うな」
「え?」
「軽々しく好きとか言うな」
はっきり聞こえたのは拒絶の言葉。
「懸想もしていない男に軽々しく好きとか言うな。それとも俺を写しと侮ってからかっているのか?だったらいい加減にしろ」
まんばが怒っている。静かに、けれどとても深く。ああ、私は知らずに彼の地雷に触れてしまったのか。
「……まんばは、私に好かれてたら迷惑…?」
なんとか言葉としての形となった掠れ声。自らトドメを刺すのは辛いけど、口から出たのはこれだけだった。
「だから軽々しく好きとか言うな!勘違いされたらどうする!!!」
「私は…私はずっとまんばが好きだった!勘違いでもいいから好きになって欲しかった!!だけどまんばは迷惑だったんだね……」
涙が溢れて止まらない。あっけなく終わった片想いとどう折り合いをつけようか。ひび割れた心はしばらくの間鈍く疼くだろう。
「ごめんね…ごめんなさい。迷惑だったなんて知らなくて…本当は今日も一緒に来るの嫌だったんだね。私一人で浮かれててごめんなさい」
止まらない涙をそのままに、まんばに向けて頭を下げる。足下に雨粒ではない水玉模様がいくつも出来た。合わせる顔なんて無いけれど、意を決して頭を上げる。精一杯の笑顔を作って、まんばに想いの丈をぶつけた。
「もうこれで最後だから、これだけは言わせて?ずっと貴方が好きでした。でも今日でもう諦めるから、明日からはいつも通りにしてください。迷惑をかけてすみませんでした」
もう一度頭を下げる。まんばは黙ったままだ。いたたまれなくて踵を返し帰ろうとした。雨はまだ止まないけど、そんなのどうでもいい。