第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
「倶利伽羅……」
閉じていた目を僅かに開けて、倶利伽羅が私の方を向く。多分もう見えてはいないのだろう、私へと伸ばされた手は宙を彷徨っている。その手を取って私の頬へ持っていく。倶利伽羅の冷たい手がどんどん冷えていくようだ。
「思い……出した、のか?」
「うん、思い出したよ。初めて会った時のことから、全部」
「……そう、か」
ほんの少しだけ表情を崩して、倶利伽羅の手が動いた。いつの間にか溢れて落ちる涙を拭おうとしてくれている。もう力の入らない冷たい手を上から両手で握りしめた。
「泣くな。お前に……泣かれる、と、どうしていいのかわから……なく、なる」
声を出すことすら辛いはずなのに、私のことばかりなんて。堪えきれず抱きつくと背中には大きな傷。丁度倶利伽羅龍の頭の辺りから袈裟がけに大きく斬られていた。これが致命傷になったのだろう。せめて塞ぐことは出来ないかとゆっくり霊力を流し込む。けれど傷は開いたままだった。
「無駄、だ。それ…より、もう一度、顔を……見せてくれ」
「倶利伽羅……」
支えている鶴丸に少し屈んでもらい、おでこ同士をくっつけるようにして目線を合わせる。見えてはいない目で、倶利伽羅は優しく私を見つめた。
「綺麗だ、な、お前は……だから、もう、泣くな……笑って、くれ」
「倶利伽羅もう喋らないでいいから!それより!傷を……‼︎」
倒れ込むようにして、唇を奪われる。時間にすればほんの数瞬のことだろう。けれど私にはとても永く感じられた。これが最後のキスなんて、そんなの絶対にイヤだ。
「愛……してる……お前、に……会え、て、良かった」
「私も愛してる‼︎だからお願いいかないで倶利伽羅‼︎ずっと側にいて‼︎」
「愛し、て、る……」
「イヤだ倶利伽羅いかないで‼︎もう忘れたりしないから‼︎お願い倶利伽羅‼︎」
パキパキと、金属にヒビが入る音が聞こえる。最期の力を振り絞ったのだろう、しっかりと抱きしめられた。私もしっかりと抱きしめ返す。着物越しでもわかるほど冷たい手を背中に感じながら、少しでも永く彼がここにいられるよう霊力を流し込む。それでも別れの時はすぐ側まで来ていた。
「お前、は温かい……な……あり、が……とう」
「いやぁぁぁ倶利伽羅‼︎倶利伽羅ーーっ‼︎」
パキリと小さな音がして、倶利伽羅は姿を消した。