第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
その日は、風の強い日だった。
夜戦に備え練度を底上げするべく短刀達を中心にローテーションを組んで出陣していた時のことだった。この日最後の出陣となったのは第二部隊。隊長は大倶利伽羅さんでメンバーは小夜、前田、平野、浦島、鶴丸。平野と浦島はまだ顕現して日が浅いからあまり強敵が現れない時代を選んだつもりだった。なのにそれはあと少しで敵本陣というところで突然現れた。
少し早いけど報告書の準備をしながら第二部隊の帰還を待っていると、連絡用端末から緊急信号が発せられた。慌てて端末を繋げると鶴丸の切羽詰まった声が耳に飛び込んでくる。
「主、手入れ部屋をすぐに使えるようにしてくれ‼︎検非違使に出くわして大倶利伽羅が重傷を負った‼︎すぐに帰還する!」
近侍をしていた山姥切が先に動いた。何が起こったのかわからず呆然としていた私の手を取り執務室から駆け出す。
「何をしている⁈早く門へ‼︎手入れ部屋には俺が行く‼︎」
その声にようやく理解が追いついて、門へと走り出した。気持ちばかりが先に立ってしまい、足がもつれて上手く走れない。転がるようにしてやっと門の前にたどり着くと、丁度第二部隊が帰還したところだった。
「本丸に着いたぞ大倶利伽羅!すぐに手入れ部屋へ……!」
あまりの光景に言葉を失う。鶴丸に肩を貸されて帰還した大倶利伽羅さんはボロボロで血塗れだった。今にも折れてしまいそうな彼へと走り寄り、少しでも楽になるように霊力を流し込もうとして頬に触れる。途端に、濁流のような勢いで記憶が蘇ってきた。顕現して初めて会った時は怖そうな人だと思ったこと、作戦を無視しようとする彼と対立しかけたこと、意外にも甘いものが好きで意気投合したこと。歌仙と光忠に背中を押されて告白しようとしたら逆に告白されたこと、初めて手を繋いだ日のこと、初めてキスした日のこと。一気に押し寄せる記憶の波にのまれながら、漠然とだがわかってしまった。
彼はもう助からない。