第5章 気づいたココロ
【周助SIDE】
「きゃー、不二くんだーっ!! やっぱりテニスしてる姿もかっこいいよーっ」
また自分の名前を叫ぶ声が聞こえた。
「ああっ」
”つばめ返し”で点を取った後、落ち着いた状態でその方角を見た。
すると、松野さんとルネさんがいた。
「・・・手塚の方にいたんじゃないんだ・・・」
「くっそー。次はとるぞー」
菊丸がネットを挟んだ反対側で騒いでいる。
(とにかく、今は試合中だ。集中しよう・・・)
・・・とは思ったものの、二人の会話が聞こえてしまう。
「あんな天才的なプレーをしているのに、手塚君が彼を上回るの?」
ルネさんがほめてくれるなんて嬉しいな。
姉さんからもよく褒められることで慣れているはずなのに、この時はその言葉で凄くほっとした。
・・・でも、また手塚か・・・
彼女の口から手塚の名前を聞くことが多い気がする。
・・・意識しすぎかな?
「手塚君はもう全国クラスだよ? いくら不二くんでも手塚君に勝つところは想像できないな~ちょっと残念だけど」
そう、彼のレベルには僕では追いつけないだろう。
ただ、今年入ってきたルーキーの越前が成長すればどうなるかわからないが・・・
「全国・・・」
「しかも、去年は負けなしだし」
負けなしって・・・ちょっと嫌なワードだよね。
「日本一!?」
ルネさんの驚いた声が聞こえた。
「あっ」
「!」
菊丸の打ったボールが僕のラケットぎりぎりをすり抜けてコート内に決まった。
「やったねー♪ 不二にリードしたにゃ」
「・・・やるね」
僕はそっと深呼吸をした。
(集中しなきゃ・・・菊丸に負けたら流石に何か言われる気がする。大石に・・・)
気を引き締めて次のボールに対処しようとした時だった。
「――手塚君って、すごいね・・・」
『ブンッ』
思わず力んでしまい、ボールが思っていた方向に飛ばずオーバーしてしまった。
「不二、どしたの? らしくないミスするじゃん」
「・・・なんでもないよ」
(集中、集中・・・)