第5章 気づいたココロ
(集中しなきゃ・・・)
さっきからそう思っているのに、彼女の言葉に意識が向いてしまう。
『――手塚君って、すごいね・・・』
(そうだよ、手塚はすごい――)
少し嫉妬してしまいたくなるほど、彼はその実力を持っている。
おそらく、外国への留学も考えられていると思う・・・
だが、彼は”青学”を全国へ連れていくまではここにとどまるのだろうな・・・
・・・なんでいつにもまして彼にジェラシーを感じているんだ?
ふと思った。
先ほどから僕はルネさんの言葉に手塚が出てくるたびに手塚に敵意を向けてしまう。
彼の事は尊敬しているが、少しは嫉妬を感じてしまうのは当たり前だと今までは思っていた。
今日は特に・・・その気持ちが強い。
「5-1菊丸!」
「やりぃ!」
最後のボールに追いつけなくて行き場を失ったラケットを下ろした。
「よーし、もう1セット取るぞ~」
「・・・・・・」
「・・・不二? どうしたの?」
黙ったままの僕を心配してか、菊丸が声をかけてきた。
「・・・なんでもないよ」
「そう? しゃんとしろよ~?」
「ああ」
コートチェンジを終え、自分のサービスゲームに入った。
ボールをついていると先ほどの会話が頭の中を駆け巡る。
もうそれを追い出すことを諦め、ゆっくり考える。
(彼のプレーは僕が真似できるものじゃない。僕は僕らしくいればいいじゃないか)
そう思うが、すぐに自分のなかで批判の声が上がる。
(手塚に勝つことを諦めていないか? それでいいのか)
手塚だって僕と同じ人種のはずだ。
勝ちにこだわることなく、あの冷たい表情で冷静にプレーを進める。
ただ、彼は強いから僕よりも・・・
”よりも”?
ルネさんの顔が浮かぶ。
手塚は彼女に好かれているのだろうか。
僕はそれを快く思っていないのか。
だとしたら、その気持ちの正体なんて一つしかないじゃないか。
「6―1不二!」
「あー負けちゃったにゃ~さっすが不二!」
「ありがとう」
なんだか心が軽くなった気がした。
分からないよりも、こうやって認めてしまった方が楽なんだ。
僕は彼女に惹かれている。